9.決心(後編)




気がついたら、は真っ白の世界にいた。
光に満ち溢れているこの場所には天と地を隔てるものがないらしい。
現に、の身体は羽根のように軽く、ふわふわと浮かんでいる。
は夢の中にいるような気がしたが、すぐにそうではないことに気付いた。
なぜなら、この世界に見覚えがあるからだ。

「ここは…たしか……」
「我の世界だ。そして、お前の世界でもある」

突然、後ろから聞こえた声。それが誰なのか、はすぐに分かった。
後ろを振り返り、笑みを浮かべながらその名前を呼ぶ。

「会って話すのは久しぶりだね、曼珠沙華」

紅い髪と瞳を持つ細身の女性。彼女がの斬魄刀・曼珠沙華の本当の姿だ。
曼珠沙華はを見ると優しく微笑んだ。

「大丈夫のようだな」
「うん。もう大丈夫」
「そうか」

そう言うと、曼珠沙華は何も言わなくなった。
の無事を確認して安心したのか、笑みを浮かべたままのことを見つめている。
そんな曼珠沙華を見て、は複雑な気分だった。
心配してくれたことが嬉しいような、心配を掛けたことが申し訳ないような。
なんとも言えない気持ちで心がいっぱいになってしまった。
しばらくの間、互いを見つめ合っている二人だったが、曼珠沙華が口を開いた。

「それで、お前はこれからどうするのだ?」

突然の問い。はすぐにルキアのことを言っていると分かった。
から笑みが消え、ゆっくりと目を閉じて考える。
これから自分は何がしたいのか、自分の望みを自身に尋ねる。答えはすぐに出た。
はゆっくり目を開けると、自分を見つめている曼珠沙華を、同じようにまっすぐ見つめる。

「私はルキアのそばにいる」

それがの願い。それを聞いた曼珠沙華は笑みを浮かべた。

「さすがだな。我を持つのにふさわしい魂だ」
「えっ?」
「我ら斬魄刀は死神の魂から生まれるものだ。そして、我らがお前たちと契りを交わすのはその魂に惹かれるからだ。そうでなければ、その者を主と認め、護りたいと思わないだろう?」


『お前がそう決めたのならば、我はそれに従おう。お前が我とともに-あ-る限り、我はお前とともに-あ-るのだから』


の心に曼珠沙華の想いが伝わってきた。
死神と斬魄刀との契約。
は曼珠沙華とともに生きると誓い、曼珠沙華はとともに戦うと誓った。

は手を伸ばし、曼珠沙華に触れる。その漆黒の瞳に迷いはなかった。
曼珠沙華はそれを見ただけで十分だった。
満足したように微笑み、曼珠沙華の姿が消えていく。
その全てが消えたとき、の手には斬魄刀が握られていた。


はっと目を覚ます。その手には曼珠沙華があり、それを見て小さく微笑んだ。
横を見ると乱菊はまだ布団の中で丸くなっていた。
小さな寝息が聞こえることからまだ眠っていることが分かる。
は、乱菊を起こさないように、そーっと窓側へと移動した。
戸を開けて部屋から出ると、すでに雨は上がっていた。
雨水が朝日に反射してキラキラと輝き世界を照らしている。
暖かい光がを優しく包み込む。
目を閉じると、はゆっくり息を吸い、吐き出す。
それだけで自分の体が清まっていく気がした。

「おはよー」

振り返ると、すぐそばに乱菊が立っていた。
光が眩しいのか、まだ眠いのか、それとも両方か。乱菊は目をこすりながらを見つめていた。

「おはようございます」

は心から笑みを浮かべた。 そんなを見て、乱菊は優しく微笑んだ。
の顔を見ただけで分かった。『もう大丈夫だ』と。



初めて会ったとき、ルキアはとても寂しそうで、すごく悲しい瞳をしていた。
ルキアと話をして、ルキアと笑い合って、少しずつ明るくなった。
心を開いてもらえたって思えて嬉しかった。
ルキアと友達になれた気がした。
でも、今、ルキアはそのときと同じ瞳をしている。
どうしてそうなってしまったのか、私には分からない。
それでも、このまま諦めることなんてできない。
ルキア。
私はルキアの友達だよ。
これからもずっとルキアのそばにいるよ。







  



 (08.05.25)

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