「私もおぬしのことが知りたい。……友達になりたい」
「すごいではないか!おめでとう!」
「案ずるな。大丈夫だ」
「友達ごっこは止めにしよう」
は、はっとしたように目を覚ました。
夢を見ていたことに気付くまでに時間がかかる。
けれど、すぐに全部夢であればよかったのにと思った。心から強く、強く。
「起きた?」
声が聞こえて、顔を上げると、蜂蜜のような暖かい色が見えた。
乱菊が笑みを浮かべながらのことを見つめていた。
「……ここは?」
「私の部屋よ。隊長にアンタのことを任されたんだけど、よく考えたらアンタの部屋知らないし、かといって執務室に置いておくわけにもいかないし。だから連れてきたの」
「そう…ですか……」
は、自分の部屋に戻ろうと思い、身体を起こそうとする。だが、すぐに乱菊によって止められてしまった。
「言ったでしょ?隊長にアンタのことを任されたって。ということで、今晩はここに泊まりなさい」
「でも、私、もう大丈夫ですから」
「副隊長命令よ」
「…………」
『乱菊が副隊長命令を使うとき、絶対に逆らってはいけない』
それは、三席になって、副官である乱菊の補佐をするようになって、は決意したことだった。
今、乱菊に逆らったら恐ろしいことになる。
そう心から思えるからこそ、何も言わない。その代わりに小さくため息をついて頷いた。
そんなを見て、乱菊は満足そうに微笑んだ。
「素直でよろしい!」
そう言うと、乱菊はの頭を撫でた。
そして、その手をの目へと移動させて優しく瞼を閉じさせた。
「ゆっくり休みなさい。明日も仕事なんだから」
「…………」
瞳を閉じれば暗闇が広がる。
それが、闇の中に迷い込んでしまいそうで、はすごく怖かった。
このまま眠ることが出来なかった。
は、この深い闇を光へと変えることは今の自分には出来ないことを知っていた。
だから、だからこそ…。
「乱菊さん」
「なぁに?」
「…少しだけ話を聞いてもらってもいいですか?」
自分の気持ちを聞いて欲しかった。
弱音を吐き出してしまいたかった。
「いいわよ。好きなだけ話なさい。全部聞くから」
乱菊の言葉。受け入れてくれる優しい気持ち。
泣きたくなるほど、の心に伝わっていく。
「友達がいるんです。その人は私にとってすごく大切な友達で、これからもずっと二人で笑い合えるって思っていました。その人も同じ気持ちでいるって信じていました。でも、その人に言われました。『友達ごっこは止めよう』って」
「…………」
「『最初から友達になれるわけが無かった』って、『私たちはあまりに違いすぎる』って、言われてしまいました。私が友達でいたいって言っても駄目でした。その人に私の気持ちは届きませんでした」
乱菊に話すたびに冷たい雫がの頬を伝い落ちていく。
溢れる涙と気持ち。は心の中で自分自身に問う。
体の外に出しているはずなのに、内にある心が重くなっていくのは何故?
つらいと分かっているのに、ルキアのことばかり思い浮かぶのは何故?
今までずっと黙っていた乱菊。
ゆっくりと口を開けて、に尋ねる。
「はどうしたいの?その子に『友達ごっこは止めよう』って言われて、これからどうするの?諦めるの?」
『諦める?』
その言葉を聞いた途端、その言葉を心の中で呟いた途端、
ルキアの顔が、ルキアの声が、ルキアと過ごした思い出が心の痛みとともに一気に輝き出した。
答えは、ひとつだった。
「嫌です」
諦めることなんか出来ない。
ルキアと友達でいたい。
この気持ちは絶対にゆずれない。
それを聞いて、乱菊は笑みを浮かべて、に言う。
「そう。なら、自分がしたいことをしなさい。大丈夫よ、なら。だって、アンタは独りじゃないんだから」
『お前は独りではない』
以前、曼珠沙華に言われた言葉。
忘れてしまったけれど、思い出すことが出来た。
自分は独りではない。だから、大丈夫だと。そう心から思うことが出来た。
「乱菊さん。ありがとうございます」
「どういたしまして」
瞳を閉じれば変わらず闇が広がる。
けれど、闇が少し明るくなった気がした。
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