四番隊・綜合救護詰所。
業務時間は終わっていたが、詰所は灯りがともされていた。
四番隊の隊士には宿直というものがあり、緊急時のために誰かしら起きて仕事をしている。
日番谷が一階にある受付へと足を運ぶと、四番隊隊士は日番谷の姿を見た途端、畏縮してしまう。
だが、そんなことを気にしているほど日番谷は落ち着いていない。
すぐにその隊士に事情を話し、を診るように言った。
「分かりました。では、彼女をこちらのベッドに寝かせてください」
「頼む…」
をベッドに寝かせる日番谷。その瞳は不安と焦燥で満ち、いつもの輝きはどこにもなかった。
四番隊隊士は、の身体に手のひらをかざし、治療を始める。
長引くと思っていたそれはすぐに終わった。
けれど、その隊士は何も喋ろうとしない。驚いた表情を浮かべたままのことを見つめている。
「は?大丈夫なのか?」
「…あ、はい!大丈夫です。どこにも問題は見当たりませんでした」
「……そうか」
日番谷は、『大丈夫』という言葉を聞くことができて、ようやく安心することができた。
のほうを見て、小さく笑みを浮かべる日番谷。一方、四番隊隊士の表情が晴れることはなかった。
何かが気になるらしく、日番谷と同じようにを見つめているのだが、その眼は日番谷のとは全然違った。
隊士はおそるおそる日番谷に尋ねる。
「あの……こちらの方はずっと冷たい雨に打たれていたんですよね?」
「ああ。そうだが」
「…………」
「どうした?」
日番谷はようやく隊士の様子がおかしいことに気付いた。
隊士は言うかどうかを悩んでいるようだったが、日番谷にじっと見られて覚悟を決めた。
「冷たい雨に打たれれば身体が冷えて免疫力が低下します。その結果、風邪や肺炎になってしまうことが多いですが、こちらの方の身体は正常に機能しているんです。長時間雨に打たれていていたのにも関わらず」
「…………」
「…今日はもう隊舎に帰って大丈夫です。明日、念のために綜合救護詰所に来るように伝えていただけますか?卯ノ花隊長に診てもらいますから」
「……分かった」
そう言うと、日番谷はを抱きかかえて十番隊隊舎へと戻った。
薄暗い廊下を音もなく歩いていく日番谷。
の身体は温かく、ずぶ濡れだった死覇装も一部乾いてきている。
『俺がを見つけたとき、の身体は冷たくなっていた。俺が見てもこのままじゃヤバイと分かった。
だからを四番隊に連れて行った。だが、に異常はなかった』
日番谷は黙々と考えていた。だが、一向に答えは出てこない。
そして、そのまま執務室に着いてしまった。
ため息に近い重たい息を吐き出す日番谷。
執務室の扉を開けようとするが、を抱えているので両手が塞がっている。
仕方なく日番谷は中にいる乱菊に声を掛けた。
「松本。開けてくれ」
「はいはーい」
声が聞こえるとすぐに扉が開き、その中から首を傾げながら乱菊が出てきた。
日番谷は執務室の中へ入り、とりあえずをソファに寝かせた。
乱菊はまずを見て、次に日番谷のほうを見た。が起きないように出来る限り小さな声で尋ねる。
「なんですか?一体何があったんですか?」
「俺もよく分からない。を探しに行ったら雨の中でが倒れていた」
「えぇ!?大丈夫なんですか!?」
「松本、声」
「……すみません。でも、大丈夫なんですか?雨の中で倒れていたって…」
「四番隊の隊士に診てもらった。特に問題はないそうだ」
「そうですか…。良かった…」
日番谷は、もう一度考えようとしたが、やめた。
今の状態では真相に近付くことは出来ないと分かるからだ。
『の無事が確認できただけで良しとしよう』
日番谷がそう自分に言い聞かせていると、
「あれ?」
突然乱菊が指を差しながら声を上げた。
その先には一本の斬魄刀がある。それはの斬魄刀・曼珠沙華だった。
任務のときや緊急事態でない限り斬魄刀は各隊舎にある保管庫に保管される決まりになっている。
帯刀を許可されているのは各隊の隊長だけだ。
それなのに、どうしての斬魄刀がここにあるのか。
乱菊が疑問に思うのは当然だろう。日番谷自身そう思うのだから。
日番谷がを見つけたとき、小さな光。それは曼珠沙華が放ったものだった。
気を失い倒れている主の居場所を誰かに伝えようとしていたのだ。
「……松本。のことを任せていいか?」
「もちろん。任せてください」
「頼む」
そう言って執務室から出て行く日番谷。その手には曼珠沙華が握られていた。
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