4.任官(後編)




「すみません!遅くなりました!」

が集合場所に着いたときには、すでに乱菊をはじめとする隊士たちが集まっていた。
自分が一番最後だと思うだったが、どうやらそうではないらしい。
人数が一人足りない。
何度も数えてみるが、結果は同じだった。
誰がいないのか、はすぐに分かった。
それは、が一番最初に話しかけた男性隊士だった。
なんだか心配になり、は彼の霊圧を探す。
今、彼はここから少し離れた場所にいることが分かる。
こっちに向かっているらしいが、嫌な感じがした。
そのことを乱菊に伝えようとした瞬間、


「ケケケケケェ!!」


突然、虚があらわれた。
一匹ではない。数十匹の虚に囲まれてしまった。
隊士たちは己の斬魄刀を手にして虚へと斬りかかる。
次々と倒していくが、一向に虚の数が減らない。
皆、おかしいと思い始めるが、目の前にいる敵を倒すことに必死で頭が廻らない。
そんな中で、と乱菊は冷静に考えていた。


『もしかして、これは分身?』
『だとしたら、本体はどこにいる?』


そして、二人は『ある考え』に行き着いた。
今ここにいるのは囮ではないか、と。
そして、ここにいない彼のところに本体がいるのではないか、と。
は戦線を離脱し、彼のもとに向かった。

「待ちなさい!」

乱菊は声を上げるが、それがに届くことはなかった。
あっという間に姿を消した
それを見て、軽く舌打ちをする乱菊だったが、口元は笑みを浮かべていた。

「全く!確かに状況判断・実行は任せるって言ったけどね!!」

乱菊は、斬魄刀を握り締めて言霊を述べる。

「唸れ!灰猫!!」

刀身が灰と化して、分身の群れへと向かい、散った。



そのとき、彼は虚と対峙していた。
と乱菊の予想通り、虚の目的は死神を殺し、その魂を喰らうことだった。
虚は、一人で行動していた彼に目をつけた。
後ろから突然攻撃されたため、彼は深手を負ってしまった。
そんな彼に、虚の容赦ない攻撃は続いた。

「ケケケケケェ!!大人シク喰ワレロォ!!死神ィィ!!!」
「くそ!」

手に力が入らなくて、柄を握るのが困難になってきた。
おまけに、最初の攻撃で血を流しすぎたらしく、目も霞んでしまっている。

『もう…ダメか……』

全てをあきらめて、彼はゆっくりと目を閉じた。
そのときだった。


「咲き乱れ。曼珠沙華」


闇の中で声が聞こえた。
凛としたその声は、死を受け入れた彼の心を生へと連れ戻す、一筋の光だった。
ゆっくりと目を開けると、光の中にの姿があった。
霞んでいく目を必死に凝らし、の戦いを見つめていた。
虚の体には紅い花が咲いている。
ひとつ、またひとつと、増えていく花。
そして、


ドーン!!!


それらは一気に爆発した。
虚は、叫びを上げることもできず、跡形を残すことも許されず、滅せられた。



本体が倒されて、分身も消えた。
乱菊は斬魄刀を鞘にしまい、隊士たちの生存を確認する。
多少怪我しているが、皆、無事だった。
あとは、たちだけだ。

「松本副隊長!」

一人の隊士が指を差しながら乱菊を呼ぶ。
その先にはたちの姿があった。

!」

乱菊は、心配した表情を浮かべながら、のそばへと駆け寄る。
そんな乱菊を安心させるように、は笑みを浮かべた。

「怪我は?」
「私は大丈夫です。彼も無事です」
「そう。良かった」

次には隊士たちのほうへと視線を移した。
そのときにはもう笑顔は消えて、真剣な瞳で彼らを見つめている。
深く息を吸い、一気に、言う。


「皆さんは本当に席官なのですか?班を編成したのにも関わらず単独行動をする。他人を信じない。他人を思い合うことができない。そんな人たちが上位席官としてふさわしいと思っているのですか?」


誰も、何も言わない。
全員、静かにの言葉を聞いて、黙っている。
自分の行動を思い返し、心から恥じた。
はさらに続けて言う。

「任務では何があるか分かりません。一人では対処できないこともあります。だからこそ、班を編成し、協力して任務を遂行することが大切だと私は思います」

そう言うと、は優しく微笑んだ。
隊士たちの正面に立ち、まっすぐ見つめている。
そして、

「さっきはありがとうございます」

はぺこっと頭を下げて、全員にお礼を言う。
突然のの行動に、隊士たちは驚いたように、見ていることしかできなかった。
は続けて言う。

「私が虚の本体を倒すことができたのも、皆さんが戦ってくれたおかげです。皆さんがいたから、皆さんの協力があったから、任務を遂行することができました。だから、本当にありがとうございます」

もう一度、深々と頭を下げる
隊士たちは、そんなを見て、なんだか可笑しくなった。
さっきまで怒りをあらわにして自分たちを叱咤していたのに、今は笑いながら自分たちにお礼を言っている。
表情がころころと変わるを見ているだけで、心が癒された。
肩の力が抜けて、皆、ようやく笑うことができた。
すると、今までずっと黙ってその様子を見守っていた乱菊が、口を開いた。

「よし!解決したみたいだし、そろそろ帰りましょうか!」
「はい!!」



それからしばらく経って、席官が正式に決まった。
上下の移動は多少あったが、皆、自分の官位に納得し、不満を言う者はいなかった。
さらに数ヵ月後、十番隊隊舎で任官式が行なわれた。
日番谷から席官の一人一人に辞令が手渡されていく。
下から上へ、順々に渡される。
最後は、三席だった。
日番谷の目の前にいるのは、だった。

「十番隊十席を三席に任ずる」
「謹んでお受けいたします」

そう言うと、は辞令を日番谷から受け取った。
は正式に十番隊三席へと任官された。







  


日番谷隊長があまり出てない。(涙)
原因としては、ヒロインさんが十席で、隊長との接点が少ないせいです。
今回、ヒロインさんが無事に出世したので、これからは堂々と隊長を出せる!(はず?)
というか、これって原作沿いって言えますかね?(汗) (08.03.20)

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