「すみません!遅くなりました!」
が集合場所に着いたときには、すでに乱菊をはじめとする隊士たちが集まっていた。
自分が一番最後だと思うだったが、どうやらそうではないらしい。
人数が一人足りない。
何度も数えてみるが、結果は同じだった。
誰がいないのか、はすぐに分かった。
それは、が一番最初に話しかけた男性隊士だった。
なんだか心配になり、は彼の霊圧を探す。
今、彼はここから少し離れた場所にいることが分かる。
こっちに向かっているらしいが、嫌な感じがした。
そのことを乱菊に伝えようとした瞬間、
「ケケケケケェ!!」
突然、虚があらわれた。
一匹ではない。数十匹の虚に囲まれてしまった。
隊士たちは己の斬魄刀を手にして虚へと斬りかかる。
次々と倒していくが、一向に虚の数が減らない。
皆、おかしいと思い始めるが、目の前にいる敵を倒すことに必死で頭が廻らない。
そんな中で、と乱菊は冷静に考えていた。
『もしかして、これは分身?』
『だとしたら、本体はどこにいる?』
そして、二人は『ある考え』に行き着いた。
今ここにいるのは囮ではないか、と。
そして、ここにいない彼のところに本体がいるのではないか、と。
は戦線を離脱し、彼のもとに向かった。
「待ちなさい!」
乱菊は声を上げるが、それがに届くことはなかった。
あっという間に姿を消した。
それを見て、軽く舌打ちをする乱菊だったが、口元は笑みを浮かべていた。
「全く!確かに状況判断・実行は任せるって言ったけどね!!」
乱菊は、斬魄刀を握り締めて言霊を述べる。
「唸れ!灰猫!!」
刀身が灰と化して、分身の群れへと向かい、散った。
そのとき、彼は虚と対峙していた。
と乱菊の予想通り、虚の目的は死神を殺し、その魂を喰らうことだった。
虚は、一人で行動していた彼に目をつけた。
後ろから突然攻撃されたため、彼は深手を負ってしまった。
そんな彼に、虚の容赦ない攻撃は続いた。
「ケケケケケェ!!大人シク喰ワレロォ!!死神ィィ!!!」
「くそ!」
手に力が入らなくて、柄を握るのが困難になってきた。
おまけに、最初の攻撃で血を流しすぎたらしく、目も霞んでしまっている。
『もう…ダメか……』
全てをあきらめて、彼はゆっくりと目を閉じた。
そのときだった。
「咲き乱れ。曼珠沙華」
闇の中で声が聞こえた。
凛としたその声は、死を受け入れた彼の心を生へと連れ戻す、一筋の光だった。
ゆっくりと目を開けると、光の中にの姿があった。
霞んでいく目を必死に凝らし、の戦いを見つめていた。
虚の体には紅い花が咲いている。
ひとつ、またひとつと、増えていく花。
そして、
ドーン!!!
それらは一気に爆発した。
虚は、叫びを上げることもできず、跡形を残すことも許されず、滅せられた。
本体が倒されて、分身も消えた。
乱菊は斬魄刀を鞘にしまい、隊士たちの生存を確認する。
多少怪我しているが、皆、無事だった。
あとは、たちだけだ。
「松本副隊長!」
一人の隊士が指を差しながら乱菊を呼ぶ。
その先にはたちの姿があった。
「!」
乱菊は、心配した表情を浮かべながら、のそばへと駆け寄る。
そんな乱菊を安心させるように、は笑みを浮かべた。
「怪我は?」
「私は大丈夫です。彼も無事です」
「そう。良かった」
次には隊士たちのほうへと視線を移した。
そのときにはもう笑顔は消えて、真剣な瞳で彼らを見つめている。
深く息を吸い、一気に、言う。
「皆さんは本当に席官なのですか?班を編成したのにも関わらず単独行動をする。他人を信じない。他人を思い合うことができない。そんな人たちが上位席官としてふさわしいと思っているのですか?」
誰も、何も言わない。
全員、静かにの言葉を聞いて、黙っている。
自分の行動を思い返し、心から恥じた。
はさらに続けて言う。
「任務では何があるか分かりません。一人では対処できないこともあります。だからこそ、班を編成し、協力して任務を遂行することが大切だと私は思います」
そう言うと、は優しく微笑んだ。
隊士たちの正面に立ち、まっすぐ見つめている。
そして、
「さっきはありがとうございます」
はぺこっと頭を下げて、全員にお礼を言う。
突然のの行動に、隊士たちは驚いたように、見ていることしかできなかった。
は続けて言う。
「私が虚の本体を倒すことができたのも、皆さんが戦ってくれたおかげです。皆さんがいたから、皆さんの協力があったから、任務を遂行することができました。だから、本当にありがとうございます」
もう一度、深々と頭を下げる。
隊士たちは、そんなを見て、なんだか可笑しくなった。
さっきまで怒りをあらわにして自分たちを叱咤していたのに、今は笑いながら自分たちにお礼を言っている。
表情がころころと変わるを見ているだけで、心が癒された。
肩の力が抜けて、皆、ようやく笑うことができた。
すると、今までずっと黙ってその様子を見守っていた乱菊が、口を開いた。
「よし!解決したみたいだし、そろそろ帰りましょうか!」
「はい!!」
それからしばらく経って、席官が正式に決まった。
上下の移動は多少あったが、皆、自分の官位に納得し、不満を言う者はいなかった。
さらに数ヵ月後、十番隊隊舎で任官式が行なわれた。
日番谷から席官の一人一人に辞令が手渡されていく。
下から上へ、順々に渡される。
最後は、三席だった。
日番谷の目の前にいるのは、だった。
「十番隊十席を三席に任ずる」
「謹んでお受けいたします」
そう言うと、は辞令を日番谷から受け取った。
は正式に十番隊三席へと任官された。
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