十番隊隊舎前では、数人の隊士が穿界門の前に集まっていた。
その中にの姿もある。
隊士たちは皆、緊張した面持ちを隠せずにソワソワしていた。
「お待たせ〜」
そこへ乱菊がやってきた。
隊士たちは、すぐに乱菊のもとに駆け寄るが、緊張はさらに増した。
「じゃ、さっそく行きましょう。全員、準備はいいわね?」
「はい!!」
死神の仕事には大きく分けて二つある。
ひとつは、瀞霊廷を守護すること。
もうひとつは、霊的秩序を護ること。
それ以外にもやらなければならないことは多く、
いつもは隊舎内にある執務室で大量の書類と格闘していることが多いのだが、今回は違った。
現世へと赴き、善なる魂「整」の『魂葬』および負なる魂「虚」の『昇華・滅却』すること。
それがたちに与えられた任務だ。
先日から続いている『全席官の実力把握』のために副隊長である乱菊も同行することになった今回の任務。
その結果によって、自分が何席になるのか決まるので、全員気迫に満ち溢れている。
「開錠」
乱菊の一言で穿界門が開かれた。
はゆっくりと深く息を吸い、心を落ち着かせる。
そして、前へと足を踏み出した。
現世に着くとすぐに乱菊は全員に言った。
「今回、よっぽどのことがない限り私は手出ししないわ。状況判断・実行は全て貴方たちに任せる。無事に任務を遂行するように」
「はい!!」
「じゃ、頑張ってね!」
そう言うと、乱菊は瞬歩で消えた。
残された隊士たちは、さっそく与えられた任務に取り掛かる。
だが、皆バラバラに移動し、誰一人として協力しようとする者はいなかった。
「はぁ…」
は、一人取り残されてしまい、大きくため息をついた。
そして、霊圧を探って他の隊士のもとへ向かう。
一番近くにいたのは、よりも上の席官である男性隊士だった。
彼は、の存在に気付くと、とても不機嫌そうだった。
「この辺は俺がやるから。他をあたって」
彼は、はっきりと言葉には出さないが、に鋭い眼で「邪魔だ」と訴えている。
それでもは笑みを浮かべて、彼に言う。
「今回の任務、みんなで協力してやりませんか?」
班を編成して現世へとやってきたのだから、その中でいくつかのチームを作るなどして、協力して任務を行なうべきだとは思っている。
だが、
「馬鹿じゃないか?今回の任務で自分が何席になるのか決まるんだぞ?それなのに他のやつらと協力なんかしてられるかよ!」
彼はを嘲笑い、その場所から消えた。
はまた一人残されてしまった。
その後も、他の隊士のところへ行き、協力して任務をするように訴えるが、誰も耳を傾けようとしなかった。
はずっと独りぼっちのまま、任務に集中することもできないまま、時間ばかりが過ぎていった。
すっかり落ち込んでしまった。
小さな公園のベンチに座り、ずっと下を向いたまま動こうとしない。
正確に言うと、動くことができなかったのだ。
隊士たちの冷たい態度は、の心を深く傷付けていた。
「はぁ……」
最大級ともいえる大きなため息をつく。
すると、
『本気で落ち込んでいるようだな』
突然、の耳に声が響いた。
透き通るような、綺麗な声だが、周りには誰もいない。
今、この場所にはしかいないはずなのに、はっきりと聞こえる声。
それに対して、は驚くことなく、刀を握り締めて、言う。
「らしくないなって思う。でも、無理だよ」
がそう言うと、突然、刀が震えた。
まるで、笑い声のように聞こえるそれは、本当に笑っているのだった。
再び聞こえる声は、さっきよりも楽しそうだった。
『本当にらしくないな。こんなお前を見るのはいつ以来だろう?我と契約して初めの頃以来か?』
「……うるさい」
『あの時はひどかったな。始解ができないのを我のせいにして、最後は赤子のように泣きじゃくっていたな』
「…………」
の斬魄刀・曼珠沙華は、本当に楽しそうに、とても愉快そうに笑っている。
は、カタカタと音を立てながら震える曼珠沙華を、力の限り握り締めた。
痛いのか、苦しいのか、曼珠沙華は静かになった。
大人しくなるのを確かめると、は握る力を緩めてやる。
しばらくの間、沈黙が続いた。
それを破ったのは曼珠沙華のほうだった。
曼珠沙華は自分の主に、小さく言う。
『そんなに悩むようなことではないだろう。言いたいことがあるなら言えばいい』
「そんなに簡単にできたら苦労しないよ」
『できないのなら、できるまでやればいい。お前の気持ちを全てぶつけてしまえ』
そう言うと、姿は見えないが、曼珠沙華は優しく微笑んだ。
それでも、刀を通して曼珠沙華の気持ちがに伝わってきて、すごく嬉しかった。
ようやくは顔を上げて、笑うことができた。
「ありがと」
『忘れるな。お前は独りではない』
「……うん!」
ベンチから立ち上がり、は瞬歩で消えた。
もう下を向くことはなかった。
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