23.極刑(後編)




ついに、刑執行の瞬間が来てしまった。
双極から巨大な霊圧が発生し、周囲を包み込んでいく。
双極の丘の地下にある修行場にも、それは伝わっていた。
それでも、夜一は一護を見守り続けている。
すると、そんな夜一のもとに、がやってきた。

「夜一様。ただいま戻りました」
「ご苦労じゃったな。で。そっちはどうじゃ?」
「鍵はお渡ししました。ですが、封印を解除するのに時間がかかっています。このままでは…」
「案ずるな。こっちは今、終わったところじゃ」

夜一の言葉を聞き、の視線は一護のほうへと移る。
そこには、斬月を斬り伏せた、卍解まで辿り着いた、一護の姿があった。

「やはり奴は卍解に至る者じゃ」

そう言って、とても誇らしげに一護を見つめる夜一。
一方、はそんな余裕はなかった。
すでに処刑は始まっている。
まもなく双極は解放され、極刑は執行される。もう時間がない。
一護の傷を癒そうと思い、は斬魄刀の柄に手をかけるが、夜一に止められた。
夜一は、の手の上に自身の手を乗せたまま、ゆっくりと首を横に振る。
そして、一護のほうを向き、声をかける。

「一護、時間じゃ。今すぐ出れるな?」
「あたりめーだろ!!」

そう言うと、一護は瞬歩で夜一とのもとにやってくる。
は、そんな一護を見て、感じた。
強くなった、と。大丈夫だ、と。心から信じることができた。
は柄から手を離し、一護に笑みを浮かべて言う。

「行きましょう。ルキアを助けるために」
「ああ!!」


ねぇ、ルキア。
貴女を失いたくないって思う人がこんなにたくさんいるよ。
みんなルキアのことが大切なんだよ。
だから、お願い。

「死なないで」



双極の矛の真の姿にして、極刑の最終執行者―――毀煌王きこうおう
極刑を執行するため、罪人を貫くため、ルキアの前に舞い降りる毀煌王。
そして、紅蓮の炎を、終焉の一撃を放つ。
その様子を見つめていた誰もが「終わった」と思った。
けれど、


「よう」


終わってなどいなかった。
一人の死神が毀煌王の攻撃を止めた。
斬魄刀百万本に値する破壊力を持つ双極の矛を、斬魄刀一本で止めた。
彼の名は……。

「―――い………一護…!」

黒崎一護。
旅禍で、ルキアから死神を手に入れた人間。
そんな彼が、処刑を止めた。
皆、驚きを隠せなかった。
そんな中で、ルキアは一護の名を呼び、そして…。

「莫迦者!!何故また来たのだ!!!」
「あ…あァ!?」
「貴様も もう解っているだろう!貴様では兄様には勝てぬ!!今度こそ殺されるぞ!!」

ルキアは、己の感情を殺し、一護を叱咤する
理由はただ一つ。 一護だけは助けたかったから。自分のことはどうでもよかった。
ルキアの胸に一護への想いが溢れ出す。

「私はもう覚悟を決めたのだ!!助けなど要らぬ!!帰れ!!!」
「……………」

そんなルキアを一護は静かに見つめていた。
理解していた。何を言っても、どんな言葉をかけても、ルキアに自分の気持ちは届かないと。
だが、それでもルキアの言うとおりにするわけにはいかない。
ルキアを助けると。一護は自分の魂に誓ったのだから。
すると、

「二人とも。痴話喧嘩はそれくらいにしたほうがいいと思うよ?」

また一人、双極の磔架にやってきた。
それは、楽しそうに笑いながら一護とルキアを見つめているのは、だった。

「痴話喧嘩じゃねえ…うおっ!?]
「一護!!」

第二撃を放つために距離をとる毀煌王。
一護はそれに応じようとし、ルキアはそんな一護を止めようとした。

「よ…止せ、一護!もうやめろ!!二度も双極を止めることなどできぬ!!次は貴様まで粉々になってしまう!!一護!!」

ルキアは声の限り叫ぶが、その声が一護に届くことはない。
一護と毀煌王、双方の睨み合いは続く。
けれど、


ガシャン


毀煌王に何かが巻きついた。
その先には浮竹と仙太郎、清音がいる。
京楽と八番隊副隊長伊勢七緒も浮竹たちのそばに駆け寄った。

「よう。この色男。随分待たせてくれるじゃないの」
「済まん。解放に手間取った。だが…これでいける!!」

浮竹が手にしているもの、それは四楓院家の宝具だった。
浮竹と京楽は抜刀し、その宝具へと霊力を込める。
刹那。


バン


毀煌王は無数の炎へと散り、破壊された。
それを見た一護は磔架へと移動し、斬魄刀を振り回し始める。

「な…何をする気だ、一護!?」
「決まってんだろ。壊すんだよ。この…処刑台を!」
「な…。よ…止せ!!それは無茶だ!!いいか!聞くのだ一護!!この双極の磔架は…」

一護の身を案じ、必死に声をかけるルキア。
だが、そんなルキアに、は微笑み、言う。
「大丈夫だよ」と。「信じてあげて」と。
優しい口調だが、その瞳には強い意志があった。


ドン


巨大な音とともに、ルキアを縛り付けていた感覚が消え、ふわりと体が浮いた。
それでも、ルキアの体が落ちることはなく、上のほうから一護の声が聞こえた。

「…助けるなとか、帰れとか…。ゴチャゴチャうるせーんだよ、テメーは。言ったろ。テメーの意見は全部却下だってよ」

少しずつ土ぼこりが晴れていく。目の前が見えてくる。


「二度目だな。…今度こそだ。助けに来たぜ。ルキア」
「ごめんね、ルキア。呼ばれてないのに来ちゃった」


涙で滲んで見えないけれど、すぐ近くには一護と、大切な二人の笑顔がある。
ルキアは目を閉じて、二人に言う。

「…礼など…言わぬぞ…。…莫迦者ども…」
「…ああ」
「お礼なんか要らない」

一護も、も、満足そうに笑った。
ルキアを助け出すことができた。
今度こそ、自分の手で助けることができた。
今はそれだけで十分だった。







  



ルキア救出!
クライマックスまであと少し!
あと二話で終わる予定です。(先に言っておきますが、予定は未定です)  (09.01.19)

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