一護は戦っていた。具象化した自身の斬魄刀・斬月と。
数多の刀の中から本物の"斬月"を見つけ出し、倒すこと。それが卍解の修行だ。
ルキアを救うために。今度こそ自分の力で救い出すために。
一護には強い決意があった。
そんな一護を夜一は静かに見守っていた。
だが、夜一の心は不安でいっぱいだった。
胸騒ぎがしてならない。不吉な何かが近付いているような気がする。
それはも同じだった。
が夜一に自分の気持ちを言おうとした、そのときだった。
ドン
誰かがやってきた。あたり一面を覆う土煙。
その中から出てきたのは、
「面白そうなことやってんじゃねえか…。俺もまぜろよ」
六番隊副隊長・阿散井恋次だった。
傷は癒えたらしい。久しぶりに見る、いつもと変わらない恋次の姿に、は安心した。
だが、そんなことをしている暇はなかった。
「ちょっと時間がなくなっちまってな。俺も少し集中して鍛錬する場所が欲しかっただけだ」
「時間が……なくなった?…どういうイミだよ?」
「…………そうだな。てめえには教えといてやる。ルキアの処刑時刻が変更になった」
「―――………何だと?」
「新しい処刑時刻は―――明日の正午だ」
処刑時刻が変更。明日の正午。
恋次の言葉を聞き、皆、驚いた。
中でも夜一は驚きを隠せなかった。
「…あ…明日……じゃと…?そんな……それではとても卍解など…」
明日までに卍解を会得するなんて、今の一護では不可能だと思った。
諦めてしまった。一瞬でも、心が負けてしまった。
だが、それでも、
「…そんなんでいいのかよ、夜一さん…。この修行…あんたから誘ったんじゃねえのかよ…。だったらあんたから諦めてんじゃねえよ…」
一護は諦めなかった。ここで諦めたら全てが終わってしまうから。
そして、夜一にも諦めて欲しくなかったから。
「じゃが、一護…!もし明日までに卍解が完成せねば…」
「言ったろ。できなかった時のことは聞かねえ。期限が明日になったってんなら…」
できなかったらなんて、そんなことを考えても仕方がない。
誰もが「無理だ」と言ったとしても、自分だけは「できる」と言う。
たとえ誰も信じてくれなくても、自分だけは自分を信じなければならない。
だから、一護は…強い。
「今日中に片付けりゃいいだけの話だ!!!」
途端、一護の霊力が跳ね上がった。
それを感じて、恋次は笑みを浮かべた。も同じように笑っている。
『やると決めたらやる』
一護はそういう人間だから。
会って間もないけれど、一護のことを何にも分かっていないけれど、そんな気がした。
は信じていた。一護は必ず成し遂げると。
「卍解か。みんなすごいなー」
一護と恋次の修行を見つめながら、は小さくそう呟いた。
それを聞いた夜一は、に言う。
「何じゃ。おぬしも卍解を会得したいのか?」
夜一にそう尋ねられて、は修行中の二人から夜一のほうへと視線を移した。
は、にっこりと笑みを浮かべている。
「いいえ。私は卍解を会得したいとは思いません」
はっきりとそう言う。
その声は凛としていて、の強い意志を夜一に伝えた。
「その理由を聞いてもいいか?」
だからこそ、夜一は知りたかった。の真意を知りたくなった。
は傍らにある曼珠沙華を手にして、答える。
「曼珠沙華と私は友達ですから」
卍解を会得するために必要なのは具象化と屈服。
斬魄刀を具象化し、屈服状態にしなければならない。
だが、曼珠沙華はかなり変わっている。
もしもが卍解を望めば、すぐにでも屈服状態になるだろう。
だが、はそれを望まない。
『主』
刀を通して、曼珠沙華が話しかけてきた。
その声がとても不安そうで、は心の中で言う。
『私と曼珠沙華は友達。だから、従うとか、従わせるとか、そういうのは絶対嫌。これだけは絶対に譲らないよ』
『……ワガママだな』
『これでも譲歩してるんだよ?本当は"主"じゃなくて、ちゃんと名前で呼んで欲しいって思ってるんだから』
『……本当に。主は変わらないな』
あのときから変わっていない。
と曼珠沙華が初めて出会ったときから、ずっと。
兄を失い、は一人だった。
そのときのにとって、世界とは絶望だった。
「なんでこんなことになったの?なんで兄上は死んじゃったの?なんで私は生きているの?」
兄の死を悔やんでばかりで、自分を責めることしかできなくて、は真っ暗闇の世界で独りぼっちだった。
そんなに曼珠沙華は手を差し伸べてくれた。
「…さぁな。だが、一つ言えることは、こんなところでこんなことをしても仕方がないということだ」
「……だぁれ?」
「分かっているのだろう?我が誰かを。そして、これから自分は何をしなければならないのかを」
「私は……死神になる。兄上のために生きる」
「そうか…」
「あなたの名前を教えて」
「我の名は、曼珠沙華だ」
「曼珠沙華。ずっと私のそばにいてくれる?」
「お前がそう決めたのならば、我はそれに従おう。お前が我とともに在る限り、我はお前とともに有るのだから」
これが、と曼珠沙華の出会いだった。
こうしては自分の道を決めたのだった。
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