22.前夜(前編)




先代護廷十三隊十二番隊隊長及び技術開発局創設者であり初代局長・浦原喜助。
彼は、死神と虚、異なる二つの存在の境界を取り払うことができる物質を生成した。

「それが…崩玉」
「そうじゃ。それが今、朽木ルキアの中にある」
「今回の騒乱の首謀者はルキアを処刑しようとしているのですね。崩玉を手に入れるために」

は拳を強く握り締めた。

『許せない。そんなこと絶対にさせない』

そう自分自身に誓った。
ルキアを死なせたくないのは、だけではない。一護も同じ気持ちだった。



「どうして俺だけ連れ帰ったんだ!!!」

麻酔の効き目が切れ、目を覚ました一護。途端、夜一に向かって、力の限り叫んだ。
一護の額に浮かぶ汗。傷が開いてしまったのかもしれない。
だが、一護の顔は、苦痛よりも非難の色のほうが濃い。
自分のことよりもルキアのことが大切なのだろう。
は、一護の気持ちがよく分かった。
だからこそ、

「もう一度おぬしの手で今度は皆をまとめて助け出せ!!」

夜一の言葉が心に響いた。
大切だからこそ、自分の力で助けなければならない。
そのために、自分のすべきことをしなければならない。

「夜一様。私も、自分がすべきことをしたいと思います。誰一人死なせないために」
「……頼む」
「お任せください」

は斬魄刀を抜き、一護に近寄る。
そして、倒れたまま自分を見上げている一護に、微笑んだ。

「はじめまして。黒崎一護さん。私はといいます」
「お前…いったい何を……」
「貴方を助けます」

そう言うと、は目を閉じて斬魄刀に霊力を込める。
そして、


「咲き誇れ」


力を解放した。白い光があたりを包み込む。
刹那。大量の霊力を失い、の意識は朦朧としていく。
完全に意識を手放してしまう瞬間、は懐かしい顔を見た。
幼い頃と変わらないままで、"シロさん"が光の中にいた。



真っ白の世界。
と曼珠沙華、二人だけの世界。
その中で、は"シロさん"と対峙していた。

「久しいな。お前とこうして会うのは」

小さく笑みを浮かべて"シロさん"は言う。
は泣き出しそうになるのを堪えながら、じっと見つめて黙っていた。
何か言いたいのに、言葉が見つからない。
すると、

「相変わらずだな、お前は」
「えっ?」

"シロさん"はの頬にそっと触れて、その手をに見せた。
"シロさん"の手は濡れている。そうさせたのは、の涙だった。
そしてはようやく泣いていることに気付いた。
涙を堪えようとしても、できなかった。
どう頑張っても溢れる気持ちは抑えられなかった。

「シロさん…」
「全く。本当に泣き虫だな」

"シロさん"はため息をつきながら、の頬をゴシゴシと拭いた。
刹那。


『兄上ー!!』
『全く。本当に泣き虫だな、は』


記憶が、兄の面影が、の脳裏をよぎる。
兄と"シロさん"はそっくりだった。
仕草も、言葉も、気持ちも、全てが。
幼い頃、何かあるとすぐに泣いていたを、兄は『泣き虫』と言った。
涙をゴシゴシと拭きながら、優しく微笑んでくれた。
どんなに悲しいことがあっても、が笑顔になれたのは、兄がいたからだった。

「これではアイツのところに行くのはまだまだ先だな」

"シロさん"の小さな呟きを、はしっかりと聞いていた。
それがどういう意味なのか分からず、が首をかしげていると、"シロさん"は、にっこりと笑った。

「お前の兄と約束したんだ」


のそばにいてくれ』
『お前、こんなときまで妹のことかよ』
『バーカ。こんなときだからだよ』
『…シスコンめ』
『うるせえよ。最期の願い、聞いてくれるだろ?』
『……ずっとは無理だぞ』
『分かってる。そうだな。に大事な奴ができて、そいつのために行きたいとが願うようになるまで、はどうだ?』
『……いいのか?』
『まあ、あんまり良くないけどあいつがそう願うならしょうがねえだろ。あいつは…は俺の一番大事な妹だからな』
『分かった。お前の最期の願い、必ず叶える。……主』


はゆっくりと目を覚ます。
一番最初に見たのは曼珠沙華だった。
『また勝手に具象化して…』と思ったが、言うのはやめた。
曼珠沙華は、とても心配そうにのことを見つめているから。
は笑みを浮かべた。曼珠沙華にそんな顔をして欲しくないから。

「大丈夫だよ」
「主…」
「心配かけてごめんね。それと、心配してくれてありがとう。曼珠沙華」







  



今回はかなり難産でした。(汗々)
十日間くらい悩んでました…。
過去を書くのは大変です。(決まっているのに、まとまらない!) (08.12.25)

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