20.創(中編)




強大な霊圧。否応なしに感じる。何かが近付いてくる、と。
それは…。

「…朽木白哉…六番隊…隊長!!!」

白哉は懺罪宮と四深牢を繋ぐ唯一の端を渡ってくる。
歩みを止めることなく、速めることもなく、ゆっくりと進んでくる。
花太郎たちが選ぶ道は二つに一つ。
戦うか、逃げるか。


「…い…いっそのこと…命乞いでもして見逃してもらうか…」

岩鷲は逃げることを選びたかった。
戦っても敵わない。敵うわけがない。

『死にたくない。まだ生きていたい』

岩鷲の心がそう叫んでいる。
しかも、ルキアは自分の兄を殺した死神。兄の仇。
そんな奴のために命を張りたくはなかった。


「ここは…ぼくが食い止めます…!!」

花太郎は戦うことを選んだ。
本当は怖かった。今すぐ逃げ出してしまいたかった。
それでも、花太郎がここまでやってきたのは、ルキアを助けるためだ。
このまま何もしないで帰ることなんかできなかった。


白哉に立ち向かう花太郎。
岩鷲は自分よりも小さいその背中を見つめている。

『斬魄刀も持ってないのに。震えているのに。本当は怖いくせに。弱いくせに。それなのに、カッコつけてんじゃねえよ』

そう思いながらも、そんな花太郎が格好よく見えた。
……それに比べて自分は何だ?

『仇のために命なんて張りたくない』

そんなの言い訳だった。
自分の命が惜しくて、逃げているだけだった。
そんな自分がものすごく格好悪かった。
だから、岩鷲は白哉と対峙する。

「いくぜ。お坊っちゃん!てめーの相手はこの俺だ!!」

戦うことを選んだ。
これ以上、格好悪い自分になりたくなかった。
仲間を見捨てて自分だけ逃げるような腰抜けに育てられた覚えはなかった。

『そんな奴は志波家の男じゃねえ!俺は……志波家の男として戦う!!』

そう思っていた。白哉にやられるまで、ずっと。



「遅かった…」

が四深牢に着いたとき、すでに白哉は剣を抜いていた。
白哉は斬魄刀・千本桜を解放してしまった。
は、無事を願っていたけれど、助けたかったけれど、間に合わなかった。
それでもは『大丈夫だ』と信じていた。
まだ終わっていない。彼が白哉を止めてくれたから。


「…やれやれ。物騒だな。それくらいにしといたらどうだい。朽木隊長」


「…う…浮竹隊長!!!」
「おーす。朽木!少し痩せたな。大丈夫か?」

十三番隊隊長浮竹十四郎。ルキアの直属の上官。
花太郎も殺そうとした白哉を、浮竹が止めてくれた。

「浮竹隊長がいるなら……えっ!?」

大丈夫だと思っていた。
けれど、そういうわけにはいかないようだ。



オン


近付いてくる巨大な霊圧。凄まじい速さで迫ってくる。
ルキアはこの霊圧を知っていた。この感覚に覚えがある。
まさかと思ったけれど、正直信じられないけれど、間違いない。
ルキアは空を見上げる。
飛んできた。空を駆けてやってきた。
目と目が合う。
その瞬間、時間が止まった。そんな気がした。


来てはならないと言った。
追ってきたら許さないと言った。
死なせたくなかったから。
生きていて欲しかったから。
たとえ自分が死ぬことになっても、護りたかった。
尸魂界に戻ってきてまもなく。旅禍が侵入したと聞いた。
身の丈ほどの大刀を持ったオレンジ色の髪の死神だと聞いた。
すぐに一護のことを思い浮かんだ。
それからずっと気にしていた。
本当に一護達が来ているのか、気になっていた。
殺気石の中にいても分かるほど、強い霊圧を感じた。
戦いが大きくなっていくのが分かった。
自分のために血が流れていく。それが嫌だった。
自分は血を流してまで救う価値があるのか、分からなくなった。
それなのに…。

「…い…一護…!」
「何だよ?ここまできて今更退けとか言うんじゃねーだろな。退かねえぞ。冗談じゃねえ。俺はてめーを助けるためにここまで来たんだ」

今となっては、どうでもよかった。
価値があるとか、ないとか。そんなことどうでもよくなってしまった。
一護が助けに来た。その理由わけが知りたかった。
どうして助けようとする?
傷だらけで、ぼろぼろになって、それでも。
どうしてそこまで助けようとする?


「心配すんな!死にゃしねえよ!これでも俺、ちょっとは強くなったつもりなんだぜ」


刹那。ルキアの頭にあの人・・・が過る。あの人の記憶が蘇る。
ルキアは目を閉じた。
見ていたいけれど、見てはいけない。
彼があの人に見えてしまうから。



それはも同じだった。
遠くから見ても分かった。一護はあの人によく似ていると。
だからこそ思う。『彼は何者だ?』と。
浮竹も同じことを考えたらしい。瞳の奥に迷いが見える。
けれど、白哉は違う。

「私が消す」

本気で殺そうとしている。
このままでは不味いだろう。一護はまだ白哉に勝てない。だから、

「行こう。曼珠沙華」

は向かう。彼らを止めるために。これ以上ルキアを悲しませないために。
霊圧を消していた結界を解き、彼らの前に姿を現した。







  



それぞれの思いと選択。
以前はこんな感じの書き方で小説を書いていました。
昔(すっごく前に)自分で書いた小説を読んでみましたが、恥ずかしかったです…。
それを思い出しながら今回の話を書きました。 (08.12.08)

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