乱菊がの部屋に着いた、ちょうどそのとき、は霊圧を完全に消して移動していた。
その間も精気を感じ、探し続けていた。
ずっと昔に、一度だけ会ったあの人を。
だが、の顔には疲れの色が出ている。
瞬歩を使い続けて、常に霊圧を消す結界を張って、ほとんど休憩してなくて。
しかもそれを朝からずっと続けているのだ。疲れていないわけがない。
『少し休め』
曼珠沙華はに言う。
今の状態を続けたら間違いなく倒れるだろう。
曼珠沙華は訴えている。『頼むから休んでくれ』と。
だが、は首を横に振る。
『主…』
「もう少しだけ。もう少ししたら休むから。ね?」
『……………』
曼珠沙華は黙り込んでしまった。
は絶対に自分の意志を曲げない。
一度言い出したら聞かないと分かっている。
だから、何も言えなくなる。そうして何もできなくなっていく。
の心が磨り減っていくのを、黙っていることしかできなくなっていく。
それから二時間後。
はようやく立ち止まった。
休むためではない。ずっと探していた人物を見つけたからだった。
……否。今、の目の前にいるのは"人"ではない。一匹の黒猫だった。
はじめ見たときは『本当に?』と思った。
だが、の心は『間違いない』と言っている。
は、自分の心を信じることにした。
すると、黒猫はの存在に気付いた。
黙ったまま、のことをじっと見つめている。
は黒猫に微笑み、言う。
「お久しぶりです。"夜一"様」
黒猫は目を見開いた。途端、髭がぴくっと動く。
の言葉に反応しているのは明らかだ。
は、もう何も言わない。応えてくれると信じて、待つ。
それほど時間はかからなかった。
「久しいのう。」
黒猫・夜一は言う。
応えてくれて、笑っているように見えて、再会を喜んでくれている気がして、はすごく嬉しかった。
「本当に。またお会いできるとは思っていませんでした」
「儂もじゃ。……じゃが、おぬし、あの頃と変わっておらぬな」
夜一の言葉。
何気ない会話の中の、何気ない一言に聞こえるかもしれない。
だが、そうではなかった。
は黙っていた。何も言わずに夜一のことを見つめていた。
夜一が言いたいことは分かっている。夜一の気持ちも何となく分かる。
それでも、
「夜一様は変わりすぎですね」
はそのことに触れなかった。
だが、の目は『今は何も言わないで欲しい』と夜一に訴えていた。
それを見て、夜一は何も言わなかった。
それよりも、他に聞かなければならないことがあった。
「それで、どうする?儂を捕えるか?」
「いいえ。私は貴方がたに協力するために来ました」
「後悔するかもしれぬぞ?」
夜一はに言う。
本当にいいのか、と。仲間と戦うのか、と。護廷十三隊を裏切るのか、と。
は答える。素直に自分の気持ちを言う。
「後悔するかどうか、今の私には分かりません」
この選択がどんな結果を生むかなんて分からない。
分からないものは分からない。
それでも、
「私は決めました。ルキアを助けると」
の心に迷いはない。
道は決めた。あとは前に進むだけだ。
「…彼方此方で霊圧がぶつかり合っている。儂は皆を死なせたくない」
「私もです。誰一人死なせません」
「行くぞ。」
「はい!」
と夜一は向かう。戦いの場へ。
大切な仲間を死なせないために、走り出す。
崩れた建物。血まみれの世界。
その中心にオレンジ色の髪の死神が倒れている。
「夜一様。彼が…」
「そうじゃ。此奴は黒崎一護。ルキアから死神の力を得た人間じゃ」
夜一は一護に近寄る。
このままでは彼は死ぬだろう。だが、そんなことはさせない。
「儂がおぬしを…死なせなせぬ」
夜一は元の姿に戻る。
そして、夜一はに向かって手を伸ばす。
「。あれをよこせ」
「はい。夜一様」
そう言って、は手に持っているものを夜一に向かって投げた。
それに霊力を込めて、
ドン
夜一は空を飛んでいく。
は、そこに一人残されてしまった。
あれは尸魂界にも二つとない貴重な道具。つまり夜一に渡したものしかない。
よって、は二人の後を追いかけるしかない。
だが、その前に向かいたい場所があった。
そこに向かわなければならなかった。
懺罪宮・四深牢。
花太郎たちのところに彼が近付いている。
急がなければ、早く行かなければ、大変なことになる。
「花君。無事でいて」
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