夜明けとともに、彼らはやってきた。
それを誰よりも早く感じ取ったのは、だった。
「隊長。何かが瀞霊廷に向かっています」
「何?」
近付いてきている。尋常ではない速さで、さらに速度を上げて、何かが瀞霊廷に向かって飛んできている。
それが何なのか、には分からない。けれど、確信があった。
「例の旅禍です」
市丸に阻まれても、決して諦めることなく、自分たちの目的を果たすために彼らはやってきたのだ。
「守護配置につかせろ。現場の指揮はお前に任せる」
「はい。十番隊第三席。これより守護配置につきます」
の、曼珠沙華を握る力が徐々に増していく。
敵は倒さなければならない。戦いは避けられない。
にとって、久しぶりの戦闘。
怖くないと言えば、嘘になる。
それでも、体が熱くなっているのも真実だった。
『こういうことを血が騒ぐって言うのかもしれないな』
そう思いながら、は己を落ち着かせるために、ゆっくりと息を吸い吐き出した。
そんなを見て、緊張しているんだと思い、日番谷は言う。
「未だ敵の数も力量も、何一つ分かっていない。無理はするなよ」
「はい!行ってきます!」
は日番谷に笑顔を見せた後、執務室から出て行った。
そして、もう一度深呼吸しては隊士たちが待機している場所へと向かった。
「皆さん、準備はできましたか?」
「はい!」
「私たちの任務は旅禍を捜索。可能ならば捕縛。この二つです。それでは、各自守護配置についてください」
「はい!!」
の言葉を聞き、隊士達の士気が上がる。皆、足早に守護配置へと向かっていく。
だが、はこの場に残っていた。
旅禍を捕らえなければならないのに。隊士達に指示をしなければならないのに。
一歩も動かず、窓の外を見つめたまま、は黙り続けている。
驚いたような、信じられないというような、複雑な表情を浮かべたまま。
しばらくして、ようやく動き出した。
向かった先は十番隊の守護配置ではなかった。
「一角さん。大丈夫ですか?生きてますか?」
「…。お前、何で……」
十一番隊第三席斑目一角は驚いた表情を浮かべながら、目の前の人物を見ていた。
にこっと笑い、何故かVサインをして、は一角に言う。
「血まみれになった一角さんを見に来ました!」
「…助けに来たんじゃねえのかよ?」
「助けに来たほうがよかったんですか?」
戦うことが好きな一角。特に"自分が楽しむための戦い"を好んでいる。
だからこそ、一角は自分の戦いを邪魔されるのを嫌う。
それを知っているから、は一角の戦いが終わってから来たのだ。
できることなら、旅禍に会いたかったのだが…。
「でも、派手にやられましたね。死んでないのが不思議です」
そう言いながら、は一角の体を見た。
左肩から腹にかけての傷と右腕の傷。どちらにも血止めの薬が塗られている。
「一角さんに勝つほどの力量ですか」
「……うるせえよ」
「そして、負けた相手をわざわざ助けた。いったい、何を聞かれたんです?」
一角はから目をそらし「何も聞かれてない」と答えた。
すると、はにっこり微笑んだ。
何も言わず、ひたすら笑い続ける。
一角の額からは汗が溢れ、背中が寒くなるのが分かった。目をそらしているのにも係わらず…。
「……分かったよ!言えばいいんだろ!」
「ありがとうございます。一角さん」
がいつもの笑顔に戻ると、一角が感じていた悪寒も消えた。
一角は大きく息をつき、に言う。
「例の極囚の居場所を聞かれただけだ」
「朽木ルキアの?」
「助けに来たんだと。五人と一匹で。笑えるだろ?」
一角は同意を求めているが、は答えなかった。一角の言葉を聞いて、目を大きく見開いたまま黙っていた。
すぐにいつもの表情に戻し、は曼珠沙華を握り締め、立ち上がる。
そして、一角に微笑み、言う。
「まもなく救護班がここに来ます。それまで大人しくしていてくださいね」
「弓親の分も呼んでくれないか?アイツも旅禍にやられたんだ」
「ご心配なく。すでに連絡してあります」
そう言うと、は瞬歩でこの場から立ち去った。
十番隊の守護配置に向かい、歩を進めていく。
頭の中では旅禍ばかり考えていた。
『やっぱり彼らの目的はルキアを助けることだった』
「ルキアちゃんを助けに来た彼らを殺せる?」
市丸の言葉がの中で木霊する。
何度も何度も繰り返し、の心を迷わせる。
「私は……彼らを殺せない。殺したくない」
は小さく呟いた。それは誰にも聞かれることなく、空気と一緒になって消えてしまった。
が十番隊の守護配置につくと、隊士達はに駆け寄ってきた。
は彼らに笑みを浮かべて尋ねる。
「首尾はどうですか?」
「各班、異常ありません」
「そうですか。各隊、被害が出ています。十一番隊はほぼ壊滅状態と言ってもいいでしょう」
「そんな……!」
の話を聞いた途端、隊士達は動揺を隠せなかった。
旅禍が侵入してそれほど時間は経っていないのに、そんなに被害が出ているとは、思ってもいなかった。
特に、自分達は護廷十三隊最強の先頭部隊だと称する十一番隊がほぼ壊滅したという情報は、隊士達にとって耳を疑うものだった。
すると、そこへ地獄蝶がやってきた。
の指先に止まり、伝令を伝える。
『状況を把握したい。今すぐ執務室に戻ってきてくれ』
それは日番谷からの伝令だった。
はくるりと振り返り、周りの隊士達に指示を与える。
「私は隊舎に戻ります。皆さんは引き続き旅禍の捜索をお願いします。
でも、決して無理はしないこと。何かあれば私に報告すること。いいですね?」
「はい!!」
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