15.警鐘(後編)




「緊急警報!!緊急警報!!瀞霊廷内に侵入者有り!!各隊、守護配置について下さい!!繰り返します!」


またしても、警鐘が鳴り響く。
瀞霊廷に侵入者が忍び込んだ、と。各隊守護配置につけ、と。
みんなが混乱する中、唯一、だけは警鐘を聞いても動じることはなかった。
この警鐘は誤りだと考えているから、その必要がないのだ。
これからどうしようか考えていると、

「お帰りなさい。隊長」
「……………」

執務室に日番谷が戻ってきた。
はいつものように笑顔で日番谷を迎えるが、今の日番谷にはそんな余裕はなかった。
突然の警鐘に驚いているのか、それとも何か別なことを考えているのか、には分からない。
日番谷の様子がおかしいことは分かった。
は、そんな日番谷に近寄り、そっと日番谷の手に触れた。
何か言いたいけれど、なんて言えばいいのか分からない。相応しい言葉が見当たらない。
それでも何かがしたくて、日番谷から離れたくなくて、は何も言わずに日番谷のそばにいた。



「随分と都合良く警鐘が鳴るものだな」
「…よう分かりませんな。言わはってる意味が」
「…それで通ると思っているのか?僕をあまり甘く見ないことだ」



藍染と市丸の会話が、最後に漏らした市丸の台詞が、日番谷の耳から離れない。
本来なら隊士達に指示しなければならないのに。
隊長としての責務を果たせない自分が腹立だしい。
日番谷が両の拳を握り締めていると、はその手にそっと触れた。
そして、優しく包み込むように握る。
最初は恐る恐るだったが、今はしっかりと日番谷の手を握っている。
の手の温もりが日番谷に伝わってくる。
日番谷は自分の心が少しずつ落ち着いていくのが分かった。
ようやく笑うことができた。

「ありがとう」
「いいえ。私は何も…」
「そんなことはない。そばにいてくれている。それで十分だ」

自分のすぐ近くに誰かがいる。そっとそばにいてくれる。
それだけで、心が温かくなった。それだけで、十分だった。
何も見えなくて不安はあるけれど、それでもさっきより気持ちが楽になった。

「さて。守護配置について侵入者を探さねぇとな」

日番谷の言葉を聞いた途端、の表情が暗くなっていく。
日番谷の手を離し、目を伏せてしまった
それを見て、日番谷はに尋ねる。

「どうした?」

は視線を上げて、ゆっくりと目の前にいる日番谷へと戻した。
そして、とても真剣な瞳で日番谷を見つめて、は言う。

「瀞霊廷のどこにも侵入者はいません」



二番側臣室から自隊の執務室へと戻ってきた乱菊が、一番最初に見たもの。
それは真面目に仕事をしている日番谷とだった。
いつもと変わらない上司と部下に驚き、呆れてしまった。
今は非常事態なのに何を考えているのだろう、と思わざるを得ない。

「……何してるんです?」
「見れば分かるだろ。仕事だ」
「それは分かります!でも、今はそんなことしてる場合じゃないでしょう!瀞霊廷に旅禍が進入してるんですよ!?」


警鐘が鳴ってからまもなくして、各隊はそれぞれの守護配置についた。
隊士は皆、躍起になって侵入者を探している。
だが、十番隊は違った。
十番隊の隊士は通常の業務を行っていた。仕事が溜まって残業をしているときと同じように。

「守護配置につかなくていい。交代で休息をとり、非常事態に備えるように」

日番谷は全員にそう指示したのだ。
隊士達は皆、驚いていた。だが、日番谷の命令に従った。
日番谷のことを信じているからだ。心から、強く。


乱菊の問いに対して、が日番谷の代わりに答えた。

「その必要はありません。瀞霊廷のどこにも侵入者がいないのですから」
「いない?だって、警報が…」
「あれは誤報です。だから、いもしない侵入者を躍起になって探す必要はありません」

警鐘は誤報だと言われた。侵入者はどこにもいないと言われた。
はっきりと言葉にしていないが、は『自分は瀞霊廷のどこに誰がいるのか分かる』と言っている。
日番谷のほうを見ると、日番谷は静かに乱菊のことを見つめている。
何も言わないということは、日番谷もそれを信じているのだろう。
日番谷もも嘘をつくような性格ではないと、乱菊は心からそう思っている。
だから、

「分かりました。私は二人を信じますよ」

乱菊は信じることにした。
乱菊にとって二人は大切な上司と部下で、大好きな人達だから。

「それじゃ、二人は先に休んでください。私が起きてますから」
「……本気か?」

日番谷は驚きを隠せなかった。
乱菊が「先に休んでください」と言うなんて、想像していなかった。
いつもの乱菊なら「それじゃ、先に休ませてもらいますね〜」と言うのに。

「はい!任せてくださいよ!」

そう言うと乱菊はにっこり笑った。
いつもとは違う乱菊の様子に、乱菊の強い意志に、日番谷は小さく笑った。

「任せた。時間になったら起こせよ」
「ありがとうございます。何かあったら言ってくださいね」
「了解です!」

乱菊に笑顔を見せた後、日番谷とは隣にある仮眠室に向かった。
今は少し休むべきだと自分自身に言い聞かせながら、これからの事態に備えるために。
そして、再び彼らはやってきた。







  



鳴り響く警鐘に慌てることなく、状況を判断するヒロインさんでした。
他の人と違うことをする人をどう思うのか、難しいところですよね。
ヒロインさんの言葉を信じるか、信じないか。
考えた結果、信じることにした乱菊さんでしたv
これからもっと大変なことになりそうですね。
頑張って小説を執筆したいと思います。 (08.11.18)

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