一番隊隊舎・隊首会議場。
本来ならば各隊の隊長しか入ることを許されていない、一番隊隊士ですら入ることができないその場所に、恋次は初めて足を踏み入れた。
六番隊舎で仕事をしていたら急に呼び出されたのだが、その理由は分からなかった。
「今すぐ隊首会議場に来い」としか言われなかったから。
今、恋次の目の前には元柳斎と白哉がいる。
恋次は片ひざをつき、静かに待っていた。どちらかが話し出すのを待つしかない。
先に口を開いたのは元柳斎だった。
「六番隊隊長および副隊長の両名に、重禍違反者・朽木ルキアの捕縛を命ずる」
「なっ!?」
「その際抵抗するようなら殺して構わん」
「ちょっと待ってください!何で俺たちが…!」
元柳斎の言葉を聞き、思わず立ち上がる恋次。
だが、刹那。元柳斎の重圧が恋次に圧し掛かった。恋次は己の体と心が潰されそうになるのを必死に耐える。
元柳斎は恋次を睨むように見つめ、言う。
「中央四十六室の決定じゃ。異議は認めぬ」
「しかし!」
恋次はどうしても納得できず、元柳斎に反論しようした。
けれど、その前に白哉に止められてしまった。
白哉は言葉にしなかったが、「これ以上何も言うな」と瞳で恋次に訴えている。
それを見た恋次は言葉を飲み込み、片ひざをついて再び顔を伏せた。
白哉は元柳斎をまっすぐ見つめ、言う。
「総隊長。準備が整い次第、現世へ向かいます」
「うむ」
「行くぞ。恋次」
「……はい」
そう言うと白哉は一番隊隊舎を後にした。
恋次は何も言わずに白哉の後ろを歩いている。
六番隊舎に戻るまで、戻ってからもずっと、二人の間には一度も会話はなかった。
『穿界門の用意が整った』と報告が入り、恋次は白哉とともに自隊の穿界門へ向かった。
すると、門の前に誰かが立っているのが見えた。
それが誰なのかが分かると、恋次は急いで走り出した。
「さん!どうしたんすか?」
恋次にそう聞かれては「見送り」と答えた。
ルキアのことはすでに護廷十三隊全隊士に伝えられている。
白哉と恋次がルキアの捕縛役として現世へ向かうことを知り、はすぐに六番隊へと足を運んだのだった。
恋次に笑みを浮かべる。
だが、それはいつもの笑顔には程遠く、今のの笑顔に元気は全くない。
無理して笑っているのは明らかだった。
恋次は小さくため息をつき、に言う。
「無理して笑わないでください。見てるこっちがつらいっす」
だが、恋次にそう言われてもは笑うことをやめなかった。
の瞳の悲しみの色がさらに濃くなっていく。
「恋次君も無理しなくていいよ?」
「俺は…別に……」
「嘘。今、恋次君、すごく痛そうな顔してるんだよ?つらいならつらいって言っていいんだよ?」
に言われるまで気がつかなかった。自分の気持ちがそのまま顔に出ていたなんて。
自分では上手く隠していると思っていたのに。
「本当は行きたくないよね。大切な人を捕らえるなんて。もしかしたら殺さなくちゃいけないなんて。そんなの嫌だよね」
「……………」
優しいの言葉。
それはとても甘く、ゆえに、恋次の心を弱くする。
もう決めたのに。決めてしまったのに。
『ダメだ』
恋次はそう自分に言い聞かせた。心が揺らいでしまう、その前に。
もう一度、決意する。強く、強く。
「しょうがないです。命令なんですから、従わないと」
「恋次君…」
「大丈夫っすよ。ルキアは生きて連れ戻してきます。絶対に」
殺したりなんかしない。
命を奪ったりなんかしない。
恋次はにはっきりと言う。
それは自分自身に言い聞かせているようだった。
そんな恋次を見て、は何も言わず小さく微笑む。
恋次が決めたのならもう何も言わない。
恋次が自分で決めた道を進めるように、笑って送ろう。
まだ心から笑うことはできないけれど、今の自分にできる最高の笑顔で。
「行ってらっしゃい」
「行ってくる」
見つけた。一目見ただけですぐに分かった。
『あれはルキアだ』と。
だが、『本当にルキアか?』とも思った。
ルキアの悩み苦しむその表情は、人間のようだったから。
ルキアのそんな表情を今まで見たことなかった。
信じられなかった。信じたくなかった。
『ルキア……』
久しぶりに会う幼馴染。
こんな風に再会するとは思ってもいなかった。
ルキアが任務から戻ってきたら、自分から会いに行こうと思っていたのに。
「副隊長になったんだ」と言って、驚かせるはずだったのに。
『どうしてこんなことになってしまったんだろう?』
そう思った瞬間、憤りが恋次の心を満たした。
今までずっと抑えていた気持ちが一気に爆発した。
そうして恋次は自分の感情を全てぶつけてしまう。
ルキアに、ルキアの能力を奪った人間に。
「ルキアは尸魂界で死ぬんだ」
殺すつもりなんてなかった。
ルキアとあのガキは生きている世界が違う。
ルキアは尸魂界で生きて、いずれ死ぬ。
そう言いたかっただけだった。
「てめーはこの阿散井恋次に敗けてここで死ぬ!!」
そうしなければならなかった。
ルキアから力を奪った奴を殺さなければ、ルキアに力が戻らない。
ルキアを死なせないためには、それしかない。
そう伝えたかっただけだった。
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