ルキアが行方不明になってから、二ヶ月が経とうとしている。
ルキアの消息は未だ分からず、隊士の中には「死んだのではないか」と言う者もいたが、は信じていた。
「ルキアは生きている。必ず戻ってくる」そう信じていた。
十二番隊隊舎・技術開発局。
局員は皆、変わり者で、一癖も二癖もある者ばかり。
気の弱い隊士は技術開発局に近寄ることも躊躇うほどだ。
そこにの姿があった。
「失礼します。十番隊第三席です」
「おう。か」
一日の業務を終えたを、煙草を銜えながら、阿近が迎えた。
そんな阿近には笑みを浮かべて言う。
「こんにちは、阿近さん。またお願いできますか?」
「いいぜ。ついてこいよ」
そう言うと阿近はを中へと案内する。
は小さくお辞儀をした後、阿近の後をついていく。
奥へ進む途中、局員が実験を行っている光景がの目に映った。
それがどんな実験なのか、素人のには分からなかったが、『見なければよかった』と思わざるを得なかった。
小さな部屋に着くと、阿近はに尋ねた。
「茶でも飲むか?」
「いいえ。お構いなく」
即座に断る。
すると、阿近は小さく鼻で笑いながらに言った。
「何も入ってねえぞ。たぶんな」
「…たぶんって何ですか?否定するならはっきり言ってくださいよ」
がそう言うと、阿近は楽しそうに笑いながら部屋から出て行った。
阿近の姿が見えなくなり、そばにいないのを確かめると、
「はぁ……」
は大きなため息をついた。
技術開発局は独特な雰囲気があり、そこにいるだけで気疲れしてしまうのだ。
阿近の言葉を本気にしているわけではない。
もしもお茶が飲みたいと言ったら、普通のお茶が出てくると思っている。
いくら変わり者の集団と名高い技術開発局でも、変なモノを飲ませたりはしないだろう。
まぁ、十二番隊隊長兼技術開発局局長の涅マユリなら本当にやりかねないが…。
「待たせたな」
そんなことを考えているうちに、阿近が部屋に戻ってきた。
彼の手にはひとつの資料ある。
それはルキアが行方不明になる直前までの居場所とそれ以降の虚の昇華記録だ。
阿近は資料を開くと、その内容をに話した。
「朽木ルキアは○日未明に虚と交戦。その後、虚の昇華は確認されたが、朽木ルキアの消息が掴めなくなった」
「戦闘中に深手を負った、もしくは死んだ。通常ならその二つが考えられるけれど…」
「深手を負い力を失ったなら義骸に入ればいい。そうすれば居場所・行動を補足できる。だが、捕捉できていない。死んだとしても何らかの痕跡が残るはず。だが、それすら見つかっていない」
「そうですか……」
謎だらけだ。いくら頭の中で考えても答えが見つからない。
記録を見るだけでは、実際にこの目で確かめなければ、真実に辿り着くことはできないのかもしれない。
「現世に行ったほうがいいんじゃないか?任務とかで現世に行く機会はあるだろう?」
阿近の問いに対し、は何も答えない。
下を向いたの脳裏に浮かぶのは、日番谷の哀しげな顔だった。
現世に行ってルキアを探す。
それができたらどんなにいいだろう。
けれど、はできない。
には十番隊第三席として、上司である日番谷や乱菊を支えなければならない。
それに、日番谷はを任務に出すことは絶対にしない。
日番谷にとって、危険なところから遠ざけることが『守る』ということだから。
の表情を見て、阿近はそのことにこれ以上触れなかった。
その代わりに。
「現世の映像を見るか?」
「映像?」
「ああ。ウチの局員に現世の電波放送を繋いだ奴がいてな。特別に見せてやるよ」
「ありがとうございます!阿近さん!」
に背を向ける阿近。
そして、ほんの少し振り返り「ついてこい」とだけ言う。
は嬉しそうに笑いながら、阿近の後をついていった。
隣の部屋に移動した二人。
中には局員が一人、真ん丸の画面を見つめていた。
「よぉ、鵯州」
阿近が声をかけると、鵯州は椅子を動かして阿近とのほうを見た。
少し不機嫌そうに見えるのは自分の気のせいだろうか、とは心の中で呟いた。
「何の用だ?阿近」
「こいつが現世の様子を見たいって言うんでな」
「……別にいいけど、俺の邪魔だけはすんなよ」
「はい!ありがとうございます!」
鵯州の許可をもらい、阿近とは画面を見ることができた。
画面の映像は、古い建物とたくさんの人が映っている。
「今日は何を見てるんだ?」
「『ぶら霊』っていう番組らしい。俺も見るのは初めてだから詳しくは知らねえ」
「へぇ。場所は?」
「空座町」
その言葉を聞いた途端、は自分の身体が強張るのが分かった。
空座町。そこは、ルキアが行方不明になった場所だから。
『もしかしたらルキアの手がかりが見つかるかもしれない』
そう思いながら、は画面をじっと見つめる。
ちょうど番組も始まった。
「ボハハハハ―――――ッ!!」
奇妙な叫び声とともに一人の男性が空から現れる。
それと同時に観客からも「ボハハハハ―――――ッ!!」と叫ぶ。
その男が廃病院に取り付く霊を除霊するらしいが、大丈夫なのだろうか?
はそう思わずにはいられない。
ざわめく心。落ち着かない気持ち。なんだかすごく嫌な予感がする。
「なっ!」
は信じられない光景を目の当たりにした。
今、彼は霊魂の孔を拡げている。
あれでは虚になる早めるだけなのに。
何を考えているのか、理解できなかった。
「ぎやああああああ」
魂魄が苦痛の叫びを上げている。
聞いているほうが恐ろしくなるほどの、悲しい声。
このままでは、魂魄が虚になってしまう。
「やめて!!」
無駄だと分かっていても、は叫んだ。
無駄なことはない。
たとえ声は届かなくても、想いは必ず届く。
「やめろォっ!!」
突然現れた一人の少年。
声の限り叫ぶ彼。男の行動を止めようとする彼。
それはまるでの声が彼に届いたようだった。
それはまるでの想いを代わりに伝えようとしているようだった。
彼は捕まってしまった。
大勢の人に押さえられて彼は身動きができない。
そんな彼に駆け寄ろうとする一人の少女。
彼女を見た瞬間、世界から音が無くなった。
何も聞こえない無音の中、は画面の中にいる少女を静かに見つめていた。
の頬を熱い涙が伝い、落ちていく。
それを拭うことなく、手を伸ばしては彼女の名を呼ぶ。
「ルキア」
の目の前にいるのは間違いなくルキアだ。
久しぶりに見るルキアの姿に、は胸がいっぱいになった。
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