十番隊隊舎から五番隊隊舎へと向かう三人。
おしゃべりが好きな乱菊と雛森がいるので、話が尽きることはなかった。
は笑いながら二人の話を静かに聞いていたが、
「そういえば、先輩はどうして斬魄刀を持っているんですか?」
突然、雛森がにそう尋ねてきた。
斬魄刀の常時帯刀を許可されているのは各隊の隊長だけ。
隊員が斬魄刀を持つのは任務のときのみ。上位席官であってもそれは変わらない。
けれど、今、は斬魄刀を持っている。
雛森が疑問に思うのも無理はない。
から笑顔が消え、手に持っている自身の斬魄刀・曼珠沙華をじっと見つめた。
「常に斬魄刀を持っていろ」
曼珠沙華が普通と違うと分かったとき、は日番谷にそう言われた。
曼珠沙華が特殊だと他の者に覚られないようにするために常に持っていろ、と。
それ以来、は日番谷の言葉を守っている。
仕事中は曼珠沙華を自分の席のそばに立てかけて置き、仕事が終わったら自室まで持っていくことが習慣になっていた。
だが、それでも他の隊に行くときまで曼珠沙華を持って行ったりすることはなかった。
にもかかわらず、が曼珠沙華を持ってきた理由。
それは、が席を離れようとしたときに曼珠沙華が倒れたからだ。
曼珠沙華が勝手に動いたせいで。
曼珠沙華が倒れる瞬間、の心に声が聞こえた。
『我を連れて行け』と。
「先輩?」
名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
の目には首をかしげながら心配そうに自分を見つめている雛森が映った。
そんな雛森には笑顔をみせて、答えた。
「大丈夫だよ」
「本当に?無理、してませんか?」
「本当の本当に大丈夫。無理はしてないよ」
そう言うと、は雛森の頭を優しく撫でた。
心配してくれる雛森の優しさがはすごく嬉しかったから。
「ありがとう。桃ちゃん」
雛森は何も言わず、黙ったままだったが、小さく笑みを浮かべた。
乱菊もそんな二人を見つめながら、笑っていた。
五番隊屋外修練場に着いた三人。
そこにはすでに各隊の副隊長や上位席官が集まっていた。
少し離れた場所には藍染の姿もある。
それを見た途端、の曼珠沙華を握る力が強くなった。
早まる鼓動。落ち着かない心。
の中で何かがぐるぐると回っている。
「今日は集まってくれてありがとう」
藍染が声を上げてこの場にいる全員に言う。
まるで演説するように、藍染はさらに続けた。
「ここにいる人達は副隊長や上位席官の者。今後、僕と一緒に合同で任務を行う可能性が高いだろう。
そのときのために僕の斬魄刀の能力を知っていたほうがいいと思った。だから今回みんなに集まってもらったんだ」
そう言って藍染は指をパチンと鳴らした。
すると、藍染のすぐ近くに三体の虚が現れる。
それを見て慌てる隊士も中にはいたが、ほとんどの者は人工虚だとすぐに分かった。
「僕の斬魄刀・鏡花水月は流水系でね、霧と水流の乱反射で敵を攪乱して同士討ちをさせる。よく見ていてくれ」
そう言うと、藍染は斬魄刀を抜いた。
藍染の霊圧が上がり、それは鏡花水月へと送られる。
そして、
「砕けろ、鏡花水月」
藍染は鏡花水月を解放した。
けれど、何も起こらなかった。
否、何が起こっているのか、には分からなかった。
突然、目の前が真っ白になってしまったのだから。
見覚えがあるこの景色。ここは曼珠沙華の世界だった。
「どうかした?曼珠沙華」
がゆっくり振り返ると、そこには曼珠沙華の姿があった。
けれど、今の彼女にいつもの笑顔はなく、紅い瞳はいつもの輝きがない。
は首をかしげながら一歩ずつ曼珠沙華に近寄る。
曼珠沙華の真ん前までやってくると、は曼珠沙華の頬にそっと触れた。
曼珠沙華の温もりが、曼珠沙華の震えが、の手に伝わってくる。
こんな曼珠沙華をは今まで見たことがない。
どうしてこうなってしまったのか、何を恐れているのか。
は知りたかった。知らなくてはいけないと思った。だから、
「話してくれる?」
の瞳には強い意志がある。
曼珠沙華はそんなを見つめていた。
そして、曼珠沙華の口がゆっくりと開いた。
わあぁぁ!
にぎやかな声が響き渡り、はハッと目を覚ました。
周りを見渡すと、そこは五番隊屋外修練場だった。
『元の世界へと戻ってきた』とは心の中で呟いた。
「すごかったですね!乱菊さん!」
「そうね。さすが隊長クラスは違うわー」
隣では雛森と乱菊が話をしている。
は二人の会話に対して曖昧に頷きながら、頭では曼珠沙華のことを考えていた。
が曼珠沙華の世界からこちらの世界に戻るとき、曼珠沙華が口にした言葉。
『藍染惣右介には近付くな』
それがの頭をぐるぐる廻っている。
曼珠沙華をぎゅっと握り締めながら、は藍染のことをじっと見つめていた。
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