忘れていたわけではない。
戦いの場に身をおくということがどういうことなのかを。
知らなかったわけではない。
死と隣り合わせだということを。
それでも理解していなかったのかもしれない。
そうだとしても認めたくなかったのかもしれない。
大切なものを失くすということを。大好きな人を亡くすということを。
「ルキア…」
「……親しかったのか?朽木ルキアと」
「ルキアは…私の友達です。私にとって一番大切な友達なんです」
『友達』という言葉を聞いて日番谷は表情を歪めた。とても痛そうに、とても辛そうに。
だが、はそれに気付かなかった。気付くほどの余裕が今のにはなかった。
ルキアを何度も呼ぶ。
けれど、その名を口にするたびの目からは涙が零れる。
そしてそれは頬を伝い、日番谷の死覇装を濡らしていく。
の内からいろんな感情が涙となって外へと溢れ出ていく。
『それなのに胸が苦しいのはどうして?』
ルキアの名を呼べば呼ぶほど、ルキアのことを思い出せば思い出すほど、重くなっていくの心。
どうしてなのか、自身分からなかった。
しばらくして、は日番谷からゆっくり離れた。
日番谷はずっと後ろを向いていたが、ようやくのほうを見ることができた。
はもう泣いてはいない。
だが、の目は腫れてしまっていて、そんなを見ているだけで日番谷は自分の胸が痛むのを感じた。
「……大丈夫か?」
そう尋ねずにはいられない。
『大丈夫』と答えると分かっていても。
心配かけないようにするために無理して笑うと分かっていても。
「大丈夫です。いっぱい泣いて少しすっきりしました。ありがとうございます」
案の定、は『大丈夫』だと答え、日番谷に笑ってみせた。
そんなを見て、日番谷がどう思うのか、分からずに。
「羽織、ありがとうございました。洗ってお返しします」
「いや、別にいい」
「いいえ!やらせてください!」
「……分かった」
日番谷の了承を得ると、は日番谷の羽織を握り締め、微笑んだ。
「……………」
日番谷は、これ以上、に何も言うことはできなかった。
言いたいことはあるが、全部飲み込んだ。
言うべきではない。言っても仕方がない。
そう思うから、どんなにつらくても、言いたいことは言わない。
その代わりに、ひとつだけ、に尋ねた。
「……これからどうするんだ?」
ルキアが行方不明になった。
今すぐにも現世へ向かい、ルキアのことを探したいと思うだろう。
けれど、日番谷はそれを許すことはできない。
は十番隊三席として、やるべきことがある。
もしもが「現世へルキアを探しに行く」と言うのなら、日番谷は止めなければならない。
日番谷の問いに対し、の答えは……。
「ルキアは行方が分からないだけで、まだ何も分かっていません。だから、私は信じます。ルキアは絶対無事だって。いつかきっと戻ってくるって」
「そう…か……」
それを聞いて、日番谷は安心した。
そして、に小さく微笑み、日番谷は言う。
「自室に戻れ。ゆっくり休め」
「はい。ありがとうございます」
日番谷にお辞儀をして、は自室へと戻っていった。
日番谷はそんなを見届けた後、ふと空を見上げた。
暗い闇の中、月が冷たく輝いていた。
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