2.不安




「君臨者よ。血肉の仮面・万象羽搏き・ヒトの名を冠す者よ。焦熱と争乱・海隔て逆巻き南へと歩を進めよ。破道の三十一!赤火砲!」
「君臨者よ。血肉の仮面・万象羽搏き・ヒトの名を冠す者よ。真理と節制・罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ。破道の三十三!蒼火墜!」

紅い炎と蒼い炎がぶつかり相殺される。
は笑みを浮かべた。

「強いね!ルキア!」
もな!」

業務が終わると、とルキアは十番隊隊舎裏で修行をした。
競い合い、互いを高め合った。

「休憩しようか」
「ああ。そうだな」

二人は一時休憩することにした。
はあらかじめ用意していたお茶と茶菓子をルキアの前に出す。
のんびりと時間が流れていく。

「私ね!席官になったんだ!十席だよ!」
「すごいではないか!おめでとう!
「ありがと。ルキアもすぐに席官になれるよ。ルキアのほうが鬼道の実力は上だし」
「…いや。そんなことはない。私はまだまだだ」
「ルキア……」

以前からはルキアが席官でないことに疑問を抱いていた。
一緒に修行をしているからはルキアの実力をよく知っている。
間違いなくルキアは席官クラスの実力を持っている。


それなのに、ルキアが席官になれないのはなぜだ?
誰かがそうならないようにしているのか?
そうだとすれば何のために?


分からないことが多すぎる。

?どうした?」
「ううん!なんでもない!」

がそんなことを考えていたら、ルキアが不安そうに尋ねてきた。
心配を掛けてしまったようだ。
すぐには笑顔になる。

「そういえば、最近よく十番隊の話を耳にするが、真実-まこと-なのか?」
「あー。新しい隊長が就任するっていうやつ?」
「ああ。何処もその噂で持ちきりだ」

ルキアの話を聞いて、は納得した。
最近、他の隊士から見られているような気がしたのは、そのせいだったのだ。
噂好きな周囲に呆れて、ため息が出てしまう。はルキアに話した。

「本当だよ。もうすぐ正式に就任されるみたい」
「やはりそうなのか!どんな人なのだ?」
「まだ会ったことないから分からないんだけど、かなり若いみたい」
「そうなのか。だが、隊長に就任するということは、卍解を会得したということだろう?」
「うん。そうなんだよね」

史上最年少だという未だ見ぬ新しい十番隊隊長。
どんな人だろうと思う。
早く会いたいと願う。

?」

またボーっとしてしまったようだ。
は慌てて話を変える。

「そういえば、この前、副隊長に修行をつけてもらったんだよね?どうだった?」
「……あぁ。とても有意義な時間だった」

そう言って、ルキアは小さく笑みを浮かべる。
『何か良いことがあったんだ』と、は思った。
ルキアがとても幸せそうに笑っている。
十三番隊副隊長・志波海燕はルキアにとって理想の上司であり、心から尊敬している人だ。
ルキアからよく話を聞いているから知っている。
海燕と話をしているルキアを遠くから見たこともある。
そのときのルキアはすごく幸せそうで、でも、少し切なそうに、少し苦しそうに、海燕を見つめていた。
海燕は本当に大切な人なんだと思った。
だから、ルキアは危ういと感じた。

「ルキア。約束して?」
「なんだ?」

ルキアはすごく心配そうにを見ている。はそんなルキアに、とても真剣に、言う。
ルキアにどうしても言いたいことがあった。

「もし何かあったら、もしどうしようもなかったら、私を呼んで」
「……?」

はよく分からない不安に駆られていた。
消えることも無く、大きくなっていく。
何か悪い予感がする気がする。
自分ではなく、ルキアに対して。
それが何なのか、には分からない。
分からないから回避することもできない。
それでも、何もしないなんてことはできない。

「分かった。約束する」

そう言うと、ルキアは笑った。
を安心させるように、の心が晴れるように、ルキアは笑う。
ルキアの優しさが嬉しかった。
ようやくも笑うことができた。

「案ずるな。大丈夫だ」
「うん。ありがと。ルキア」

が感じた不安。
それはこれから起こることの前兆だった。己自身への警告だった。
だが、はその意図が分からずにいた。
がそのことに気付くのは、もう少し先のこと…。







  


ルキアと友達になったヒロインさんですが、どうしても心にある不安が消えません。
次回、いよいよあの人が登場します! (08.03.01)

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