「かつおぶし!!」
変な声を上げては飛び起きた。
その瞬間、『何でかつおぶし?』と考えるが、いくら考えても思い出せない。
どんな夢を見ていたのか忘れてしまったようだ。
「あれ?ここは…」
の思考回路が正常に動き出し、辺りを見回す。
そこは自分の部屋ではなかった。
けれど、ここがどこなのか、すぐに分かった。
見覚えがある、前にも一度来たことがあるこの部屋は、乱菊の部屋だった。
「どうして乱菊さんの部屋にいるんだろう?」
は昨日の出来事を思い返す。
日番谷に食事に誘われてお酒を飲んで……途中からの記憶がない。
すると、
ひらり
地獄蝶がやってきた。
それはの指先に止まり、
『!おはよ!昨日は酔いつぶれて大変だったわね。隊長から連絡が来たときはホントに驚いたわ。今日は非番にしたからゆっくり休みなさい』
乱菊の声がに伝わる。
それを聞いた途端、は顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。
日番谷に粗相をしていないか、それがすごく心配だった。
「はぁ………」
大きなため息を吐き出すと、なんだかじっとしていられなくなった。
一宿の恩義として、乱菊の部屋の掃除を始めた。
置いてあるものを動かさないように気をつけながら綺麗にしていく。
しばらくして無事に掃除を終えると、は誰もいない部屋に深々とお辞儀をし、早々に乱菊の部屋から出て行く。
それからまっすぐ自室に戻ると、畳の上に寝転んで目を閉じた。
鳥の声、風の囁き、陽だまりの匂い。
の体が感じる全てがの心を包み込む。
それらに優しく抱かれながらは意識を手放した。
の心は夢の世界へと落ちていく。
夢か現か分からない。
それでも忘れていない。
あの人に出会ったことを。穢れを知らない真っ白な姿に目を奪われたことを。
「あなたはだぁれ?」
「我が視えるのか?」
「みえるよ。わたしはっていうの」
「我は××××」
聞こえなかった。もう一度聞いたけど、声が届くことはなかった。
正直にそう言うと、その人は悲しい瞳で笑った。
そんな顔をして欲しくなくて、その人が心から笑えるように一生懸命考えた。
そして。
「あなたのことをシロさんってよんでもいい?」
「シロさん?」
「うん。まっしろで、すっごくきれいだから。だめ?」
「好きにしろ」
「ありがと!シロさん!」
真っ黒になる視界。
一瞬飛んだ意識が元に戻ったときはすでに違う場面へと変わっていた。
大きな屋敷の中にある大きな部屋。
とても重い空気に押し潰されそうだった。
「我が家を更なる繁栄へと導くことがお前の役目」
威厳に満ちている父。
そんな父のその目が苦手だった。
「そのためには相応しい方と縁談を結ばなければ」
気品に溢れている母。
そんな母のその目が嫌いだった。
二人の前で自分の願いを言うことができなかった。
また黒く染まる視界。
その色がだんだん濃くなっていくような気がするのは、おそらく気のせいではない。
意識を取り戻すと、そこはまた違う場面だった。
「私、兄上のようになりたい」
「……それは不可能だ。どう頑張ってもお前は俺にはなれない。お前はお前なのだから…」
自分は自分。誰かの代わりになることなんてできない。
この言葉の意味を当時は知らなかった。
それくらい子供で、愚かだった。
だから、あんなことになってしまった。
「なんで……なんでこんなことになってしまったの!?」
「…さぁな。だが、分かっているのだろう?これから自分は何をしなければならないのか」
「私は………」
はっと目を覚ます。
は乱れた呼吸を整えるために深く息を吸い、吐く。何度も、何度も。
溢れる汗が止まらない。乱れた霊圧が元に戻らない。
汗が肌にぴったりとくっついて気持ちが悪い。
窓から外を見上げると、空が茜色に染まっていた。
夕方まで眠ってしまったようだ。
「どうして……こんな夢を見るのかな?」
尋ねても誰も答えてはくれない。
返ってくるのは無音だけ。
まるで忘れることを許さないように。
そんなことをしても忘れることはないのに。
自分が犯した過ちを。決して忘れることなんてできないのに。
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