7.酒(前編)




が五番隊に書類を届けに行く途中で雛森と吉良に会った頃。
十番隊隊舎執務室では…。

「たいちょー」
「…………」
「無視しないでくださいよー」
「…なんだ」
「隊長はのことが好きですよね?」


「はぁ!?」


乱菊の突然の言葉に驚く日番谷。びっくりしすぎて開いた口が塞がらない。
そんな日番谷を見た乱菊はため息をつき、さらに一言。

「ダメですよ?好きなら好きって言わなくちゃ」
「……勝手に話を進めるな。俺は好きだと一言も言ってねえ」
「じゃあ、なんです?好きじゃないと言うつもりですか?」
「…………」

日番谷は何も答えられず黙ったままだった。
乱菊はさらに大きなため息をつく。
この前の、三番隊に行ったを連れ戻しに向かったときの心情を考えればいいのに。
周りから見れば日番谷がを好いていることが明らかなのに。
けれど、当人は全く分かっていない。
鈍いというか、お子様というか。
そんな上司を見て、心底呆れてしまう。

『なんとかして二人の距離を縮めよう!』

そう決意すると乱菊は早速行動に移した。

「隊長、お願いがあるんですけどー」
「却下だ」
「えー!まだ何も言ってないのにー!」

内容を聞かずに「却下」と言う日番谷に乱菊は力いっぱい抗議する。
日番谷は眉間に皺を寄せて、ため息をつきながら尋ねた。

「……なんだ」
「今晩、を食事に誘ってください!」


「はぁ!?」


乱菊の言葉に再び驚く日番谷。
『何をふざけたことを言ってるんだ』と心の中で呟く日番谷だったが、乱菊はとても真剣だった。

「自分の気持ちを自覚するのに必要ですって!」
「余計なお世話だ」

暗に鈍いと言われた気がして日番谷はイライラしながら答えた。
すると乱菊から笑みが消えた。

「それに隊長も気付いてましたよね?今朝からずっとの様子がおかしいって」
「……ああ」
「私が聞いてもは答えてくれませんでした。だから、隊長。私の代わりに話を聞いてあげてください」
「……なんで俺なんだ?」

自分じゃなくても他に適役はいるだろう。
そう思う日番谷だが、乱菊ははっきりと断言する。

「隊長じゃなきゃダメです。が自分の中に溜めている辛い気持ちを話せるのは隊長だけです」
「なんでそう思う?」

日番谷にそう聞かれ、乱菊は腕を組みその理由を考える。
必死に考えた末に乱菊が出した答えは「女の勘?」だった。
それには日番谷も呆れてしまった。
そんな日番谷に反論するように乱菊は言う。

「理由は分からないけど、なんとなくそう思うんです。理屈じゃないんですよ、そういうのって」

理由は何かしらあるだろう。
それが今はよく分からないだけで。
日番谷は再び大きなため息をつく。そして、乱菊に言った。

「分かった。ただし、ここにある仕事を全部終わらせたらな」

日番谷が言う『ここにある仕事』とは、執務室にある書類を全て処理することだ。
今日中に処理・提出しなければならないのもあれば、提出日が二、三週間先のもある。
それらを残りの業務時間で終わらせることができたらを食事に誘うと日番谷は言う。

「約束ですよ!」

そう言うと乱菊は仕事を始めた。
その速さは事務処理が得意な日番谷やと比べたら時間はかかっているが、乱菊は着実に書類を捌いていく。
それを見て日番谷は、最初はかなり驚いていたが、小さく笑みを浮かべた。
そして自分も仕事を再開した。


それからしばらくした後、

「隊長!終わりました!」

乱菊は席を立ち自分の成果を日番谷に見せた。
乱菊の机にある書類は全部処理を終えている。
日番谷に言われたとおり、全ての仕事を終わらせることができた。
もちろん日番谷の協力があったこそだが。

「隊長!」
「分かっている。約束は守る」
「やったぁ!」
「だが、アイツが了承するかどうかは分からねえぞ」
「大丈夫です!絶対!」

『その自信はどこかから来るんだか』と心の中で呟く日番谷。
終わった書類を整理しながら乱菊に言う。

「この書類を提出してこい。それが終わったらまっすぐ帰れ」
「えぇー!隊長がに食事を誘うのを確認しなくちゃ!」
「やらんでいい」
「えー!!」
「とにかく。お前はまっすぐ帰れ」
「…………」
「いいな?」
「……はーい。分かりましたよ。隊長のケチー」

文句を言いながら乱菊は書類を持って執務室から出て行った。
そんな乱菊を見届けた後、日番谷は何て言ってを食事に誘おうか、真剣に悩んでいた。







  



ヒロインさんが執務室から出て行った後の日番谷隊長と乱菊さんの会話です。
まだ自分の気持ちを自覚していない隊長。
そんな隊長の背中を押すのはやっぱり乱菊さんでした。
隊長!これから頑張ってください! (08.08.20)

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