6.瞳(前編)




その日、日番谷と乱菊は仕事の手を止めてを見つめていた。当の本人は全く気付いていないが。
今、の机の上には大量の書類が積まれている。
大きな山と化したそれが視界を塞いでしまっているためが二人の視線に気付くことは不可能だった。

『今日のはいつもと明らかに違う』

口にはしないが日番谷も乱菊もそう思っていた。
そして相手も自分と同じことを考えていることが分かった。
この事態を何とかするため、最初に行動したのは乱菊だった。

!」
「わっ!」

突然乱菊に肩を叩かれて驚く
胸に手を当てて自分の鼓動を感じながら乱菊に言った。

「あー、乱菊さん。びっくりさせないでくださいよ」
「ごめんねー。突然で悪いけどにお願いがあるの」
「どんなお願いですか?」
「この書類を五番隊に届けてくれない?」

そう言うと乱菊はに書類を見せるが、は少し困ったような表情を浮かべた。
いつもなら書類を快く受け取るが、今日のはその様子を見せない。
そんなに今まで黙っていた日番谷が言った。

「松本が行くと絶対にサボるからな。悪いが頼む」
「……分かりました。行ってきます」

は乱菊から書類を受け取り執務室から出て行った。
その背中を見送り日番谷と乱菊はため息をついた。しかもほぼ同時に。

「たいちょー。に何かしました?」
「してねえよ」
「なら何ではこんなにピリピリしてるんです?」
「俺が知るか」

日番谷は席を立つとの机の上にある書類を自分の机の置いた。そしてすぐに書類の処理を始める。
乱菊は大きなため息をついた後、日番谷と同じように書類の処理・片づけを始めた。


その頃、は…。

「はぁ…」

ため息をつきながら五番隊隊舎に向かっていた。
今日はルキアが任務で現世に向かう日。
考えないように仕事に集中していたのだが、

「心配かけてしまいましたね…」

執務室を出るときに見た日番谷と乱菊の顔が忘れられない。

「はぁ……」

さっきよりも大きなため息をつく
すると、

先輩!」

突然、名前を呼ばれた。
が後ろを振り返ると、そこには雛森と吉良がいた。
とても嬉しそうに笑いながらのもとに近寄ってくる二人。
はそんな二人に微笑んだ。

「こんにちは。雛森副隊長。吉良副隊長」

二人の腕には副隊長の証である副官章がある。
あれから年月が経ち、雛森は五番隊、吉良は三番隊の副隊長になったのだ。
吉良は少し寂しそうに笑い、に言った。

「昔のように呼んでください」
「それでは、お言葉に甘えて。久しぶりだね。桃ちゃん、イヅル君。今日はどうしたの?」
「実は阿散井君が六番隊の副隊長に任官されることになったんです!」
「これから任官状を渡しに行くんです」
「そう。恋次君が…」

きっと恋次は緊張した表情を浮かべながらそれでも平静を装うとするだろう。
そんな恋次の顔が容易に浮かび、の表情が緩む。
それを見た雛森は両の手をポンッと叩き提案した。

先輩も一緒に十一番隊に行きませんか?」
「えっ?」
「ぜひ行きましょう。きっと阿散井君も喜ぶと思います」

雛森と吉良の期待に満ちた瞳を見て、は急に暗くなっていく。
二人の気持ちが嬉しいからこそ、断れなければいけないことに心が痛んだ。

「ごめんね。これから書類を届けに行かなくちゃ行けないの」
「そうですか。残念だな…」
「阿散井君に伝えたいことはありますか?」

そのときルキアの顔がの頭を過ぎった。
以前、恋次からルキアと幼なじみであることを聞いたことがある。
途端にルキアが現世へ向かうことを知って欲しいと思った。
できることならルキアを見送りして欲しいと願った。

「それじゃ、一つだけ。今日、十三番隊の朽木ルキアさんが駐在任務で現世に行くの。午後には出発するみたい。そのことを恋次君に伝えてくれる?」
「分かりました。伝えておきます」
「お願いね」

雛森と吉良は十一番隊に向かう。
雛森はに何度も何度も手を振った。
はそんな二人に笑顔で見送った。







  



ルキア出発の日。
いつもと様子が違うヒロインさんを心配する日番谷隊長と乱菊さんでした。
ようやく吉良を出せました!(汗) (08.08.08)

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