3.願望




この日も朝の稽古を終えると、は一番に出勤した。
いつものように書類の振り分けを行っていると、

「おう!はいるか?」

他隊の隊士が執務室にやってきた。
どこにいてもすぐに分かるほどの大きな声の持ち主は十三番隊第三席小椿仙太郎だった。

「おはよう。仙太郎さん」
「おう!さっそくで悪いが、また仕事頼んでいいか?」
「私は構わないけど、浮竹隊長はまだ具合悪いの?」
「本人は大丈夫だって言ってるんだが、あんまり無理して欲しくねえんだよ。浮竹隊長はよく無理するからな」

も仙太郎の気持ちがなんとなく分かった。
隊長の仕事は隊士のと比べられないほど大変だ。
二百人以上の隊士を率いることが隊長の職務なのだから当然だろう。
だが、その背に全隊士の命を背負うということは、とても重い。
そんな隊長を支えたいと思い、自分ができることを一生懸命頑張っている。
けれど、隊長は無理をする。
「大丈夫だ」と言うけれど、無理をしているようにしか見えなくて。
そんな後姿を見ているだけでは胸が苦しくなる。
そして、同時に少し不安になる。

『本当に私は日番谷隊長の力になっているのだろうか?』

そう思うと途端に不安が大きくなっていく。
自分の弱い心がは情けなくなる。そんな弱さも自分自身の一部だとしても。

「俺はな、ただ単純に笑っていてほしいんだ」
「……笑っていて欲しい?」
「俺は浮竹隊長のことを誰よりも尊敬してる。だから浮竹隊長の役に立ちたくて、俺ができることをがむしゃらにやってる。浮竹隊長の役に立てたって実感できるのは笑顔を見れたときなんだ」
「笑顔……」
「言葉でも嬉しいが、笑顔は格別だ。お前も分かるだろ?」

仙太郎にそう言われては思い出した。 初めて日番谷の笑顔を見たとき、とても嬉しかったことを。
これからもっともっと頑張ろうと思ったことを。
の心に強い気持ちが溢れていく。
は仙太郎に微笑む。もうその瞳に迷いや不安はなかった。

「仙太郎さん、ありがとう」
「おう!」

書類を受け取ってもらえたので十三番隊に戻ろうとする仙太郎。
けれど、何かを思い出したのか、くるりと振り返りを見て言った。

「朽木が駐在任務で一ヶ月現世に行くことになった。三日後に出発だ」
「…そう」
「見送りに来てやって欲しいけど、無理強いはしねえ。せめて朽木の無事を祈ってやってくれ」
「うん。分かった」


ルキアが現世に行く。
一ヶ月間ルキアがいなくなる。
頭の中で考えた途端、は自分自身を強く抱きしめた。

ルキアに会いたい。
今すぐルキアのところに行きたい。

そう願う自分の心を必死に止めていた。
そう望む自分の体を必死に留めていた。
その代わりには決めた。『ルキアのために何かをしよう』と。







  



隊長職は大変ですよね。
今回はそんな隊長を支える部下の気持ち。
ヒロインさんはきっと日番谷隊長の支えになっていると思います。
さて。ルキアが駐在任務で一ヶ月間現世に行くことを知ったヒロインさん。
『ルキアのために何をする』のか、乞うご期待で! (08.07.31)

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