「失礼します。十番隊第三席です。朽木隊長はいらっしゃいますか?」
「入れ」
「失礼します」
六番隊隊舎・執務室の扉を開けたは深くお辞儀をし、ゆっくりと顔を上げた。
すると、そこには大量の書類が高く積み上げられ、白哉の顔が見えないほどだった。
『もしかして、仕事を手伝って欲しいと言われるのかな?』
頭の中にそんな考えが思い浮かび、げんなりするだが、顔に出さないように努力し、白哉に尋ねた。
「朽木隊長。ご用件は何でしょうか?」
「ああ。悪いが、お茶を淹れてくれないか?」
「……?分かりました。少しお待ちください」
は首を傾げながら給湯室に向かった。
「仕事を手伝って欲しい」と言われると思っていたのに、「お茶を淹れて欲しい」と言われるとは。
『呼び出した理由が「お茶が飲みたかったから」なんて、まさかそんなことはないよね?』
そう自分に言い聞かせながら初めて入る他隊の給湯室でお茶の用意をするだった。
湯のみにお茶を淹れる。それだけでお茶の香りがの鼻を刺激する。
とても高級そうな感じがするのはおそらく気のせいではないだろう。
冷めないうちにと思い、急いで執務室に戻ると、は白哉の机の上にお茶を置いた。
それを見た白哉は、お茶が一人分しかないことを知り、のほうを見て言う。
「兄の分も用意しろ」
「私の分も?よろしいのですか?」
「構わん」
「ありがとうございます。今、用意してきますのでもうしばらくお待ちください」
は自分の分も用意し、足早に白哉のところへ戻ってきた。
すると白哉はようやく仕事の手を止めてが淹れたお茶を飲んだ。
その様子をジーっと見つめるだったが、
「…………」
白哉は黙ったままだった。
美味しい、とも。不味い、とも。なんにも言わない。
口に合わなかったのかと、すごく不安になりも一口お茶を飲んだ。
すると、
「美味しい」
そう心から思える味だった。
「こんなお茶、今まで飲んだことない!」と断言できるほどの美味しさだった。
『そういえば、朽木隊長は自分の気持ちを素直に言えない方でしたね』
はようやく思い出した。朽木白哉がどういう人物なのかを。
ルキアのことが大切で大切で仕方がないのに、どういう風に接すれば分からない。
ルキアのことを守りたいと思っているのに、自分の気持ちを言葉にすることができない。
それゆえにルキアに「嫌われている」と誤解されてしまっている白哉。
掟を重んじ、とても厳しいと思われてしまいがちだが、本当はとても優しい人であることを。
お茶を飲み一息つくと、白哉はのことをまっすぐ見つめて話し始めた。
「急に呼び出してすまなかった」
「いいえ。驚きはしましたけど、気にしていません。ですからお気になさらずに」
「…兄は十一番隊の阿散井恋次と親しい仲だと聞いたが、それは真か?」
「はい。阿散井六席とは真央霊術院のときに知り合い、それからずっと仲良くさせていただいています」
「そうか…」
そう言うと白哉は話を止めた。
恋次がどうしたのか、が尋ねようとした瞬間。
「阿散井恋次を六番隊の副隊長に任命することにした」
「えっ?恋次君が…副隊長に……」
今、六番隊に副隊長はいない。
前任の副隊長が自らその座を辞したためだ。
その後、白哉が六番隊の副隊長として相応しいと思える人物がいなかった。
そのため、今までずっと副隊長は空席のままだった六番隊。
そこに恋次が着くことになる。
「一番に伝えようと思い、兄を呼んだのだ」
「お心遣い感謝します。我がことのように嬉しく思います」
白哉を目標としている恋次。
白哉を越えたいと思っている恋次。
恋次と白哉の距離が一歩近付く。
こんなに嬉しいことはない。
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