朝、いつものようには曼珠沙華と稽古をしていた。
だが、曼珠沙華の動きが止まった。真剣勝負の最中にも関わらず。
も同様に止まり、外へと声を掛けた。
「いい加減出てきたらどうですか?」
「なんや。気付いとったん」
突如、修練場内に響いた声。
出入り口の扉から顔を出したのは三番隊隊長市丸ギンだった。
はため息をつき、呆れたように市丸に言った。
「覗き見なんて趣味が悪いですよ。市丸隊長」
「いやぁ、そんなつもりはなかったんやで?ただ、朝の散歩してたらこっちのほうで殺気で溢れてるのを感じたから気になってしもうたんや」
市丸は一歩一歩近寄り、との距離を縮めていく。
目の前まで近付くと、市丸はに尋ねた。
「君、卍解を会得したいん?」
「いいえ」
「だって、そこにいる彼女は君の斬魄刀の本体やろ?具象化して屈服させようとしてたところとちゃう?」
「違います。稽古の相手をしてもらっていただけです。退屈だって煩いので」
「おい。煩いは余計だろ」
今までずっと黙っていた曼珠沙華が反論してきた。
は市丸から曼珠沙華へと視線を移して言い返す。
「本当のことでしょう?精神統一してるときにカタカタ音を立てて自分の鬱憤を訴えてきたときは本当に邪魔だったよ」
「邪魔とは何だ!」
「本当のことを言ったまでだけど?」
と曼珠沙華の口喧嘩が始まった。
たかが口喧嘩で殺気立つ二人。そんな様子を市丸は外野から見つめていた。
と曼珠沙華の口論が激しくなる直前、市丸は楽しそうに笑いながら言った。
「君、おもろい子やね。名前は何て言うん?」
「です」
「ちゃんか。かわええ名前や」
は市丸のことを見つめていた。
市丸の微笑みがなんだか悲しそうに見えるのだが、何も言わなかった。
これがと市丸の初めての出会いだった。
勤務時間中。
執務室では日番谷とが業務を行っていた。
そこに乱菊の姿はないが、いつものサボりではない。
流魂街に虚が現れたという連絡が入り、虚の退治に向かったのだ。
「………ふぅ」
仕事がとりあえずひと段落し、は静かに席を外した。
給湯室へと足を運び、慣れた手つきでお茶を淹れる。
熱いお茶と美味しいお菓子をお盆に載せて執務室に戻ると、日番谷の机の上に置いた。
「ありがとう」
日番谷はにお礼を言い、お茶を飲んだ。
すると日番谷の眉間の皺が無くなり、口元が少し上がった。
それを見たはにっこり笑い、自分の席に着いた。
とても静かで、とても幸せな時間が流れていく。
ふわり
そこへ地獄蝶がやってきた。
地獄蝶は日番谷の指先に止まり、伝令を伝える。
それを聞いた日番谷は再び眉間に皺を寄せた。
「何かあったんですか?」
「……六番隊の朽木がしばらくの間を貸して欲しいと言ってきた」
「朽木隊長が?私を?」
「ああ。全く。仕事中なのに何を考えてんだか…」
「分かりました。六番隊に行ってきます」
そう言うとは立ち上がったが、日番谷の機嫌が悪くなる。
はそのことに気付いたが、どうして機嫌が悪くなったのか、そのわけは分からず首を傾げた。
「日番谷隊長?」
「……用事済ませてさっさと戻って来い」
「はい。できるだけ早く戻ってきます」
日番谷にそう言われると、はニコッと微笑み、執務室から出て行った。
そんなを見送った後、日番谷が特大のため息をついたことを知る由もなく…。
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