十番隊隊舎・執務室。
日番谷、乱菊、の三人はいつものように業務を行っていた。
日番谷が机の上にあった書類を見た途端、眉間に皺が刻まれた。
書類を目に通すと、日番谷の皺はさらに深くなっていく。
日番谷はのほうを見て言う。
「、この書類を十一番隊に届けてきてくれ」
「私が行きますよー」
「馬鹿野郎。お前はその書類を処理するまで外出禁止だ」
日番谷の視線の先――乱菊の机上には大量の書類が積まれてある。
抗議する乱菊だったが、日番谷はそれを完全に無視し、話を進めた。
「今度、十番隊と十一番隊が合同で行う任務に関する書類だが、十一番隊の印が押されてないんだ。悪いが、頼む」
「分かりました。行ってきます」
は日番谷から書類を受け取り、執務室を出た。
そして、足早に十一番隊隊舎へと向かう。
コンコン。
は十一番隊隊舎・執務室の扉を叩いた。
「おう。入れ」
「失礼します」
扉を開けて中に入り、まずは一礼する。
ゆっくり顔を上げると、十一番隊の隊士が驚いた表情を浮かべながらを見ていた。
それは阿散井恋次だった。
「さん!」
「恋次君、久しぶり。元気そうだね」
「元気っすよ!」
は恋次を見つめてにっこりと笑い、
「あはははは!」
声高らかに笑い出した。
「なんすか!?急に!」
「あはははは…!恋次君、その入れ墨!その眉毛!あはははははは!!」
の笑いは止まらない。
恋次はぴくぴくと笑われている眉毛を動かしながら、怒りを堪えていた。
はそんなことを気も留めず笑い続けているのだが…。
「あー、よく笑ったー」
「……そうすか。つーか、何しに来たんすか?」
恋次にそう言われると、は手をポンッと叩いた。
はスッと背筋を伸ばすと、恋次の前に立つ。
「今回は十番隊と十一番隊合同任務に関する書類を届けに参りました。確認した後、印を押してください」
そう言うと、は持ってきた書類を差し出した。
恋次は、急に真面目になったに驚きながら、目の前の書類を見て困惑していた。
「俺でいいんすか?」
「今、恋次君の他に十一番隊の人、いる?」
隊長格が確認するべきだろうが、仕方がない。
周りを見回しても恋次以外誰もいないのだから。
勤務時間中なのに執務室に隊士が一人しかいないなんて考えられないけれど。
恋次は小さくため息をつき、から書類を受け取った。
さっそく書類に目を通す恋次。
そんな恋次を眺めながらは提案した。
「恋次君、久しぶりに稽古しない?時間合わせて、一緒に」
「遠慮するっす。今は別の人に教えてもらってるんで」
「……そっか。残念だな」
は本当に残念だった。
恋次がどれくらい強くなったのか知りたかったし、学生のときのように互いを高めあいたかったのに。
はそう心から思ったのだが…。
「それに、もう稽古できないでしょう」
「どうして?」
「だって俺、男っすよ?」
恋次の言葉を聞いた途端、の中で何かがぶちっと音を立てて切れた。
それが堪忍袋の緒だということはいうまでもないだろう。
だが、は怒りをあらわにはせず、にこやかに笑っていた。
は恋次を見つめて静かに言う。
「へー。私が女だから稽古できないんだ」
ようやく異変に気付いた恋次。
今までずっと下を見ていた自分の頭を上げて、を見た。
笑っているのに笑っていないの瞳を。
「いや、そんな意味で言ったんじゃ……」
「恋次君。今度の合同任務、参加するよね?」
「へっ?」
「恋次君がどれくらい強くなったのか、楽しみにしてるからね」
「さん?」
「それでは、失礼しました」
恋次の言葉を聞かずには執務室から出て行った。
一人執務室に残された恋次はとても後悔していたのだが、行ってしまったに知る由はない。
瞬歩で十番隊隊舎に戻ると、は日番谷に言った。
「今度の十番隊と十一番隊の合同任務、私が行きます」
日番谷は、何がなんだか分からなかくて、ただ頷くことしかできなかった。
進