大好きな人(前編)




去年の二月十四日。
"バレンタインデーはお世話になっている人や大切な人にお菓子を渡す日"と教えてもらった。
けれど、今年のバレンタインデーは……。



二月十三日。
の部屋はたくさんの小包みで埋め尽くされていた。
それらは全てバレンタイン用のプレゼントだ。
一番隊から十三番隊まで、日頃お世話になっている人たちに渡すために、数ヶ月前に計画を立て、今までずっと準備を進めてきたのだ。

「よし!これで完璧!」

全てのプレゼントを確認し終え、が誇らしげに笑みを浮かべた、ちょうどそのとき。


ちゃん。いる?」


外からを呼ぶ声が聞こえた。
は、元気に「はーい!」と応じた後、床に散らばっているプレゼントを器用に避けながら移動し、扉を開けた。
そこに立っていたのは、

「雛森副隊長!!」

雛森だった。
雛森はニッコリと笑いながらに言う。

「名前で呼んで」
「ですが…」
「敬語も使わないで?今は業務時間外でしょう?」
「えっと……」
ちゃん?」

異議を認めない雛森の口調。
は心の中で小さくため息をついた後、小さく笑みを浮かべた。

「……桃ちゃん」
「うん!素直でよろしい!」

そう言うと、雛森はの頭を優しく撫でた。
それに対し、『敵わないな…』と心の中で思うだった。
にとって雛森は先輩で、階級も上。
本当なら、業務時間外であってもは敬語を使わなければならないのだが、雛森がそれを許さなかった。
雛森いわく、は妹のような存在で、仲良しになりたいらしい。

「それで、今日はどうしたの?」
「あのね、明日はバレンタインでしょ?一緒に本命チョコ作ろう!」
「……えっ?」
「大丈夫!日番谷君も食べられるレシピ用意してあるから!」
「…ちょ!待っ…!!」

突然の言葉に戸惑う
だが、雛森はそんなの手をぎゅっと掴み、瞬歩である場所へと移動した。
その場所とは……。

「待ってたわよ!!雛森!!」

四番隊・綜合救護詰所内にある炊事場だった。
そこには乱菊や七緒、やちる、卯ノ花、勇音、清音、ネムがいる。
みんなエプロンや割烹着を身に着けていた。

「さっ!ちゃんもコレ着て!!」

雛森(いつの間にはエプロン姿になっている)にそう言われて、割烹着を手渡された
わけが分からず、大きな声で訴えるように、尋ねた。

「あのー。これは何の集まりですかー?これから何をするんですかー?」
「これは女性死神協会主催のお菓子作り講習会です。これから明日のバレンタインデーのチョコを作ります」
の質問に、一番近くにいた卯ノ花が答えてくれた。
それに続いて、


は何作るのー?」
「ひゃあ!?」


やちるが尋ねてきたのだが、後ろからいきなり抱きつかれたため、びっくりして思わず叫んでしまった。

「草鹿副隊長……」
「味見は私にまかせてね!」
「よーし!じゃ、はじめるわよ!!」
「はい!!!」

乱菊の一声で、みんな一斉に作業を開始した。
は、何故みんなこんなに気合が入っているのか、いまいち理解できなかった。
が腕を組み「うーん」と考え込んでいると、

「どうしたの?ちゃん」

雛森がボールをかき混ぜながら近付いてきた。
は、雛森のほうを向き、尋ねる。

「ねえ、桃ちゃん。どうしてみんなこんなに気合入ってるの?」
「どうしてって、バレンタインのチョコを作ってるからだよ」
「気合入れて作るほどお世話になっている人、いるの?」

そんなふうには見えないのだが。
そして……。

「バレンタインにはね、もうひとつ意味があるんだよ」
「もうひとつの意味?」
「それはね……」

は、バレンタインのもうひとつの意味を知った。










 (09.02.14)

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