日溜まりのような




護廷十三隊に入隊して、目が回るくらい忙しい日々をすごして、ようやく取れた初めての休日。
新人の俺に与えられた休みは、たった一日。
わずかな自由をどうやって過ごすか、ずっと前から決めていた。



前日の夜、一日の仕事を終えるとすぐに俺は隊舎を後にした。
先輩連中から仕事を押し付けられないように、ほとんど瞬歩で移動した。
向かう先は西流魂街一地区、潤林安。ばあちゃんとがいる家だ。
舗装されていない畦道や家から篭れる弱々しい明かり。
瀞霊廷とは全く違う光景を眺めて、故郷を目の前にして、ただ懐かしかった。
周りからは『氷のようだ』と言われて、友達といえる存在は一人もいなくて、いつも独りだった頃。
今までずっといい思い出はないと思っていたのに、久しぶりに帰ってみたらこんなにも懐かしいと感じるなんて。
前に帰ったのはいつだったか、しばらく考えてみたけど、結局思い出せなかった。
だが、集落を抜ける頃には、考えていたのは違うことだった。


『ばあちゃんと、元気かな?』


薄暗い夜道を歩きながら思い浮かぶのは二人の笑顔。
途端に俺の足は徐々に速くなる。
その理由は、それだけ二人に会いたいから。
ずっと家に帰りたかった。
ずっと二人に会いたいと思っていた。
二人への気持ちが俺を急がせている。
『もっと早く、もっともっと早く』と心が先走り、体がそれを追いかけていると言ってもいいくらいだ。
俺は風のように駆け抜けていった。



家が見えてくると同時に、塀の前に誰かが立っているのが分かった。
暗くてよく見えなかったけど、それが誰なのかすぐに分かった。
それはあっちも同じだった。


「シロ兄!」


懐かしい声。それと同時に、小さな女の子が俺の胸の中に飛び込んできた。
俺はしっかりと受け止めた後、ぎゅっと抱きしめた。
すると、あっちも同じように俺の背中へと腕を回し、負けないくらいぎゅーっと抱きしめてきた。
そうして、俺とは久しぶりのの再会を喜んだ。
しばらくしては顔を上げて、笑いながら言った。

「おかえり!シロ兄!」
「ただいま」

に会って、の笑顔を見て、俺は笑った。
"帰ってきたんだ"と感じることができた。



「おばあちゃん!シロ兄が帰ってきたよ!」

家の中に入ると、いつもの場所にばあちゃんがいた。
久しぶりに見るばあちゃんは前よりも小さくなっていて、それを見て俺は胸が痛くなった。
それでも……。

「ただいま。ばあちゃん」
「おかえり。冬獅郎」

俺は笑って「ただいま」と言った。
ばあちゃんは変わらない笑顔で迎えてくれたから。
胸はまだ痛むけど、今の自分にできる精一杯の笑顔をばあちゃんに見せたかったから。
のほうを見ると、さっきよりも嬉しそうに笑っていた。
の日溜まりのような笑顔を見ることが何よりも嬉しくて、それだけで胸の辺りが温かくなる。
『ずっと笑っていてほしい』と思い、心から強く願った。










 (09.08.19)

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