はじめての帰省(後編)




「ただいま」

久しぶりに帰ってきた家。
周りをぐるっと見回しても、どこも変わっていなかった。
俺は自分の心が落ち着いていくのが分かった。

「お帰り。冬獅郎」
「ただいま。ばあちゃん」

奥の部屋からばあちゃんが出てきた。
久しぶりに会うばあちゃんはまた小さくなった気がして、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
それでもばあちゃんはしわくちゃな顔でにっこり笑って、俺を暖かく迎えてくれる。
俺は笑顔を浮かべながら、ばあちゃんに草冠を紹介した。

「今日は友達を連れてきたんだ」
「はじめまして。草冠宗次郎です」

そう言って、草冠は丁寧にお辞儀する。
ばあちゃんはますます笑った。
俺の友達と聞いて、すごく嬉しいみたいだ。
潤林安にいるとき、俺が友達を連れてくることはなかったから。

「来てくれてありがとうね。ゆっくりしていきなさい」
「今日は泊まっていけよ。草冠」
「いいのか?ご迷惑になるんじゃないか?」
「迷惑じゃない。泊まっていってほしい。お前がよければ、だけどな」
「ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

草冠が泊まることになって、俺はすごく嬉しかった。
それをに言ったら、も嬉しそうに笑っていた。


学校が終わって、夏の休みになった日。
日番谷の家に遊びに行った俺はそのまま日番谷の家に泊まることになった。
最初は迷惑になると思っていたけど、次第にそんな気持ちはどこかに行ってしまった。
おばあさんも、ちゃんも、みんな良い人で、俺のことを温かく迎えてくれたから。
その日の夜、なんだか眠れなくなった俺は、縁側で星を眺めていた。
たくさんの星が力強く輝いている。すごく綺麗だと思った。
だけど。

「なんだかな……」

今日一日の日番谷の顔が俺の頭から離れない。
日番谷はずっと笑顔だった。学校にいるときとは比べ物にならないくらい。
そんな日番谷を見て、楽しそうな日番谷を見ることができて、嬉しいはずなのに…嬉しいのと同じくらい、寂しかった。
それは何故なのか、理由はひとつだ。

「俺は…あいつを笑顔にできない」

そんな俺が、日番谷の友達だと言う資格なんてないんじゃないか?
そう思った途端、俺の心を暗い闇が覆っていく。
少しずつ、少しずつ、深くなっていく闇。
そのとき。

ちゃん?」

気がつくと、俺の少し後ろにちゃんがいた。
ちゃんは恐る恐るだが、俺のそばに寄ってきた。
何も言わなかったけど、俺の隣に座るちゃん。
すると、
「あの……」

ちゃんが初めて話しかけてきてくれた。
それだけで俺はすごく嬉しいのに、ちゃんはゆっくり、少しずつ、言葉を紡いでいく。

「シロ兄、すごく嬉しそうだった。貴方のおかげ。ありがとう」
「俺のおかげ?」

俺はちゃんの言葉を聞いても、いまいち信じられなかった。
それでもちゃんは小さく頷き、さらに続ける。

「ここにいるとき、シロ兄は友達がいなくて、ずっと一人だった。私やばあちゃんには『気にしてない』って言って笑ってたけど、きっと寂しかったと思う。だから、死神の学校で大丈夫かなって心配だったの。シロ兄は自分から話しかけることはできないし、また一人ぼっちでいるんじゃないかって」

確かに、日番谷は一人だった。
大勢の中にいつも一人で、窓際の席にぽつんと座っていた。
そうして、日番谷はいつもぼんやり外を眺めていた。

「でも、シロ兄には貴方がいた。貴方っていう大切な友達がいた。だから、ありがとう」

ちゃんはにっこり笑って俺のことをまっすぐ見た。
吸い込まれてしまうそうな漆黒の瞳。とても綺麗だと思った。心から。
心にあった闇がどこかに消えて、俺はちゃんに微笑むことができた。


「これからもシロ兄のこと、よろしくお願いします」
「こちらこそ。これからもよろしく」










ヒロインさんの笑顔に癒された草冠。
彼にはたくさんの幸せを感じてほしいですね。 (08.09.17)

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