願い事




七夕。
愛する二人―織姫と彦星―が一年に一度だけ会うことを許された日。
けれど、それは空の上のこと。
地上では、青々とした笹と様々な色の紙、細長い紙を準備して、願い事をする日。
さぁ、今年は何を願うのだろう?


いつもはくだらないと言っていたけど、めんどくさくてやらなかったけど、今年は違った。
一つだけ、願い事があったから。

「桃姉は何をお願いするの?」
「私はね『死神になれますように』だよ」
「それ、去年も書いてなかったか?」
「うるさいな!シロちゃんは黙っててよ!ちゃんは?何をお願いするの?」

桃がそう尋ねると、は黙り込んでしまった。
かなり悩んでいるらしい。
腕を組んで、目を閉じて、一生懸命考える
しばらくして、目を開けたは笑みを浮かべながら答えた。

「『桃姉とシロ兄とおばあちゃんの願い事が叶いますように』」
「それがちゃんの願い事?」
「うん!」

俺はらしいと思った。
桃は感動したらしく、をぎゅ―っと抱きしめた。
そんな二人を見て、ほんの少しだけ、ムカッとした。
絶対に口に出さないけど…。

ちゃん!大好きだよ!」
「私も桃姉のこと好きだよ」

二人のそんな会話を聞いた途端、さらにムカッとして、俺はを桃から引き離した。
その後すぐに桃にうるさく言われたけど。


深夜、誰もが眠りについた頃、何故か俺は目が覚めてしまった。
目を瞑ってもう一度寝ようとするが、全然眠くならない。
眠ることをあきらめて、俺は目を開ける。
横を見たらの姿がなかった。
ばあちゃんと桃が起きないように、そーっと部屋から出た。
家の中を一通り探したけど、はどこにもいない。

「あとは……」

そして、俺はようやくある場所―屋根の上―でを見つけた。
は屋根に座って空を眺めている。
俺も同じように上を見上げてみるが、分厚い雲に覆われた空が広がっているだけだった。

「シロ兄、どうしたの?」

突然、が声を掛けてきた。
視線を鈍色の空に奪われたままで。
俺はの隣に座り、と二人、空を眺めながら言った。

「お前こそどうしたんだよ?寝ないと大きくなれないんだぞ?」
「うん、分かってる。でも、なんだか気になったの。空の二人はちゃんと会えたのかなって」
「会えただろ。曇り空だから俺たちには見えないけど。今頃二人で一年間分の話でもしてるんじゃねえか?」
「そっか。よかった」

夜の風が俺とを優しく撫でる。
笹の葉と短冊が揺れる音が聞こえた。

「そういえば、シロ兄は願い事なんて書いたの?」
「知りたいか?」
「うん。知りたい」
「なんで?」
「願い事を叶えてくれる神様に『シロ兄の願い事を叶えてください』ってお願いするから」

それを聞いて、俺はから目を逸らした。
自分の顔が赤くなってるって分かるほど嬉しくて、を直視できなかった。

「シロ兄?どうしたの?」

周りが暗くてよかったと心から思った。
こんな顔をに見られなくて本当によかった。
まだ顔は赤いままだけど、暗いから見えないけど、俺はに微笑んだ。

「神様は叶えられないぜ。俺の願いを叶えられるのはだけだ」
「神様が叶えられないのに私が叶えられる?どんなお願いなの?」

俺はの耳元で静かに囁いた。


ずっとと一緒にいられますように


すると、の身体がびくっと強張った。
嫌だったのかもしれないと心配だったけど、そうじゃなかったようだ。
俺の行動と言葉に、ただ驚いただけだったらしい。
は、俺を拒絶することなく、ゆっくり俺の手を握った。
小さく、だけどはっきりと、は言う。


「シロ兄の願いは私が叶えるよ」










 (08.07.07)

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