ふたりきり




を家族に迎えてからしばらく経った。
は、はじめは新しい生活に戸惑っていたが、今ではすっかり慣れて生き生きしてる。
前は無表情でいることが多かったが、今はよく笑うようになった。
それは良いことだと思う。
だけど、気に入らないことがある。
一つは、が俺のことをシロ兄と呼ぶようになったことだ。
桃がシロちゃんと呼んでいるせいでもシロ兄と呼ぶようになった。
ちゃんと名前で呼ばせたかったのに…。
もう一つは、と二人で過ごす時間が減ったことだ。
俺の後ろをついてきて離れようとしなかったのに、ばあちゃんや桃といることが増えた。
ばあちゃんはいろんなことを教えてくれるし、桃はいろんな場所に連れて行く。
どっちもにとって必要なことだし、良いことだ。
それは分かっている。
ちゃんと分かっているけど、やっぱり嫌なんだ。
が俺のそばにいないことが、が俺以外の誰かに笑っているのが、すごく嫌なんだ。
この気持ちは寂しい気持ちに似てるけど、たぶん嫉妬だ。


「シロちゃん!」
「なんだよ」
「みんなで遊びに行くんだけど、シロちゃんも一緒に行かない?」
「みんなって誰だよ」
「私と、ちゃんと、隣のてっちんと、あーちゃん」

それを聞いた途端、俺は「行かねえ」と即答する。
桃は不満そうに頬を膨らませて俺を見た。

「……そんな顔しても俺は行かねえぞ」
「いいもーん。ちゃん連れて行くから。シロちゃんなんか知らなーい」

そう言うと桃は俺から離れていった。
俺は桃のほうを見ずに小さくなっていく足音を聞いていた。


桃の気持ちは分かってる。
もっと外に出てもっと他の奴と関わって欲しいと思っている。
俺が周りになんて言われてるか知っている。俺がどんな奴か分かってる。
だからこそ、あんなふうに誘って誰かと関わる機会を与えてる。
だけど、俺はそれに応えられない。
どうやっても駄目なんだ。


感じたある気配。それが何なのか、すぐに分かる。

「なんだ?」

振り返らずに声をかける。
トコトコと足音が聞こえてきて、が近付いてきた。

「ばれちゃった」

そう言うと、は微笑んだ。
俺の隣に座って寄りかかる
温かさが俺のほうに伝わってくる。

「桃たちと遊びに行ったんじゃなかったか?」
「行かなかった」
「なんで?」
「シロ兄とふたりきりでいたいから」

そう言うと、はニコッと笑う。
そんなを見て、俺は小さく笑みを浮かべた。
はますます嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとな」
「こちらこそ。ありがとう」



「久しぶりに児丹坊のところに行くか?」
「行く!」

手を繋いで出かけよう。
ふたりきりの幸せな時間を過ごそう。










 (08.06.22)

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