西流魂街一地区、潤林安。
ある日、散歩していた俺は一人の少女と出会った。
家のすぐ近くにある丘で、そいつはじぃっと空を眺めていた。
後姿を見ただけだったけど、そいつは自分よりも幼いことが分かる。
そいつは飽きることも動くこともなく、ずっと空を眺め続けている。
俺はそいつのことを見ていた。目を逸らすことができなかった。
夕焼けの空。もうすぐ暗くなるのに、そいつは動く素振りも見せない。
俺は、いつもなら何事にも興味を示さないのに、なぜか気になって仕方がなかった。
だから、ゆっくりとそいつに近付いて、声を掛けた。
「迷子か?」
はじめてそいつは動いた。
吸い込まれるような漆黒の瞳で俺のことをまっすぐ見つめている。
しばらくしてそいつは小さく首を横に振る。
「家どこだ?」
また首を振る。
それを見た俺は、そいつの前に手を差し出した。
「え?」
「家がないなら来い。俺がお前の家族になる」
「いいの?」
「ああ」
そいつは俺の手を取った。にこっと笑って俺のことを見ている。
俺はめったに見せない笑顔でそいつに尋ねる。
「俺は日番谷冬獅郎。お前は?」
「」
「よろしくな。」
「うん!」
そいつ――は嬉しそうに笑った。
きゅっと握り締めている白くて小さいその手を俺は優しく握る。
「家に帰るぞ。ばあちゃんと桃が心配してる」
「ばあちゃん?もも?」
「会えば分かる。ばあちゃんも桃もの家族だ」
「かぞく。わたしのかぞく」
俺はと歩き出した。
がついてこれるようにゆっくりと。
俺は歩きながら自分の後ろをトコトコとついてくるに尋ねた。
「なんであそこにいたんだ?」
「わかんない。きづいたらあそこにいた」
「誰かと一緒じゃなかったのか?」
「ずっとひとりだった」
「……今は俺と一緒だろ?」
「うん!いまはひとりじゃない!」
俺の言葉を聞いて、はしっかりと頷いていた。
そんなを見て、俺は笑みを浮かべていた。
俺とがようやく家に着く頃には、周りはすっかり暗くなっていた。
の足に合わせて歩いていたら仕方がない。
「…………」
は何も言わずに俺の着物の袖をぎゅっと掴んだ。なんだか怖いらしい。
俺はそんなの頭を優しく撫でて家の中へ入った。
「ただいま」
「シロちゃん!どこまで行ってたの!?」
桃がドタバタと足音を立てながら俺の元へやってくる。
は身体をびくっと強張らせた。俺を掴む力が強くなる。
「あれ?シロちゃん、その子は?」
桃に見られて日番谷の後ろに隠れてしまった。
俺の後ろで小さくなっている。
「あーあ。怖がっちまっただろ。バカ桃」
桃を軽く睨んだ後、俺はの身体を優しく抱きしめてやる。
すると、少し落ち着いたのか、の強張った身体がほぐれた。
すると、
「おやまぁ。新しい子だね」
奥のほうからばあちゃんがやってきた。
俺がこくっと頷くと、ばあちゃんはにっこりと笑った。
「これからにぎやかになるね」
「わーい!私に妹ができた!」
「桃、うるさい。またが怖がるだろ」
「ちゃんか!可愛い名前!」
「人の話を聞け!」
俺は大きくため息をつき、を見た。
すると、小さな寝息が聞こえてくる。
は、いつの間にか自分の胸の中で眠っていた。
「あれ?ちゃん、寝ちゃったの?」
俺はを静かに持ち上げた。
簡単に持ち上げられるほどの身体は軽かった。
ばあちゃんに「寝かせてくる」と言って奥の部屋へ向かう。
奥の部屋に着くと、すでに布団がしいてあった。
その上にをおろし、布団に寝かせてやる。
の寝顔を見て、静かに部屋から出ようとしたが、
「?」
が俺を掴んで離そうとしない。
起きたのかと思ったけど、は相変わらず眠っている。
どうやら無意識にやってしまったらしい。
手を解くこともできるが、俺はそれをしなかった。
の隣に寝転び、添い寝する。
「そばにいるから。安心して寝ろ」
今、君はどんな夢を見ているのだろう?
楽しい夢であればいい。
優しい夢であってほしい。
朝になったら笑顔の君に出会えるように。
終