「シロ兄は綺麗だよね!」
「はぁ?」
「シロ兄の銀色の髪も、緑色の眼も、すっごく綺麗!宝石みたいにキラキラで、私、大好き!」
「そっか…」
そう言うと、にこぉっと笑う。
そんなの笑みを見て、俺は穏やかに笑うことができた。
は俺が拾ってきた女の子だ。
そのときからは笑っている。
自分を怖がらないのも、いつも無愛想な自分に微笑むのも、全部が初めてのことだった。
桃とばあちゃん以外はそんなことしない。
「冷たい」と言われるのに「綺麗」と言われて、すごく嬉しかった。
の笑顔は今もずっと変わらない。
いつも温かい笑顔は俺の心を温かくしてくれる。
そんな陽だまりのようなの笑顔を見て、俺も笑みを浮かべる。
幸せだと心から思えた。
これからもずっと続いてほしいと願っていた。
「シロ兄、どこに行くの?」
「甘納豆買いに行くだけだ。は留守番してろ」
シロ兄を見送った後、私はおばあちゃんのそばに寄る。
以前よりも小さくなったおばあちゃん。
とても小さく、つぶやくように言う。
「冬獅郎は優しい子だね。ばあちゃんやのことを一番に思っている。だからずっと我慢している」
「…うん」
「でも、ばあちゃんはそれがつらい。冬獅郎にはもっと自分の気持ちに素直になってほしい。もっともっと自分のことを大切にしてほしい」
「…うん」
シロ兄には桃ねえと同じように死神になる力がある。
それなのにシロ兄は死神にならないと言う。
『もし自分も死神になったら、寂しい思いをする』
そう思って、おばあちゃんや私のことを思って、シロ兄は死神になろうとしない。
それがおばあちゃんにはつらい。もちろん、私も同じ気持ちだ。
それでも、
「でも、シロ兄はきっと分かると思う。だって、シロ兄だもん」
「そうだね…」
私は絶対にシロ兄は死神になると信じていた。
きっかけがあれば、シロ兄は自分から死神になると言うだろう。
その後、シロ兄は不機嫌な顔で帰ってきた。
大好きな甘納豆を食べてもシロ兄の機嫌は直らない。
私が理由を尋ねると、シロ兄はムカつく奴に会ったと不機嫌そうに呟いた。
『これ以上言わないほうがいい』
そう思って、それ以上何も言わなかった。
その日の夜、私はなんだか眠れなくて、一人で月を見ていた。
青い月が暗い空の中で唯一輝いている。
「こんばんは」
突然、金髪の女の人が現れた。
黒い着物を着ているからすぐに死神だと分かる。
「こんばんは」
悪い人には見えなかったので、私は挨拶してにっこり笑った。
女の人も綺麗に笑って、尋ねてきた。
「銀色の髪の男の子、ここにいる?」
「部屋で寝てますけど…」
急に周りが寒くなった。
身体が冷たくて上手く動かせない。
「…やっぱりね」
そう言うと、女の人は部屋の中に入っていった。
私は意識が薄れていく中で女の人の背中を見つめていた。
「よっ!」
目を覚ますと、俺の目の前に昼間の死神がいた。
笑顔のまま死神は言う。
「霊圧閉じて寝なさいよ。お婆ちゃん、寒そうだよ」
死神に言われて俺は初めて気づいた。
隣で寝ているばあちゃんの身体が震えていることに。
凍えているのは見れば分かる。
問題は、その原因だ。
その答えを俺は知っている。けれど、認めたくなかった。
そんな俺に死神は言う。
「…ぼうや。あんた死神になりなさい」
「!」
俺が何か言おうとするけど、その前に死神は続けて言う。
「このままじゃ、あんたじきに自分の力で大切な人を殺すことになる」
死神になれ、と言う。
自分の力で大切な人を殺す、と言う。
信じたくない、認めたくない、と心の中で叫んでいる。
『俺の力で大切な人を殺してしまう。ばあちゃんを、を、俺はこの手で殺してしまう』
「冬獅郎」
「シロ兄!」
しわくちゃな顔で微笑むばあちゃんの声が、太陽のように暖かいの笑顔が、俺の心に浮かぶ。
そして、血で紅く染まって両方消えた。
「俺は…」
死神は出て行った。
俺はずっと考えていた。
出した答えはひとつだった。
次の日の朝。
「ばあちゃん、俺は死神になります」
俺は死神になるとばあちゃんに伝えた。
なんて言われるか不安だったが、ばあちゃんは笑っていた。
とても嬉しそうで、ほんの少し寂しそうな笑みだった。
そんなばあちゃんの顔を俺は見たことがなかった。
だから、俺は深く頭を下げる。
すぐにばあちゃんの小さい手によって撫でられた。
部屋から出ると、すぐそばにがいた。
俺はに「死神になる」と告げた。
は「そっか」とだけ言って、下を向いた。
俺が無理やり顔を上げさせると、の目には涙が浮かんでいた。
それを見て、俺は自分の胸が苦しくなるのが分かった。
泣いてほしくないのに、笑ってほしいのに。そう心が叫んでいる。
それでも、俺は死神になると決めた。
声の在り処を見つけて力の扱いを知るために。
大切な人を殺すのではなく、護るために。
そのためには、俺は死神にならなくてはいけない。
俺はの頬に手を当てた。
の温かい肌を伝う涙は熱く、俺の手をぬらした。
「…」
「今は泣いちゃうけど、大丈夫だよ。私は留守番してるから。シロ兄のことを待ってるからね」
そう言っては笑う。
まだ涙は止まらないけれど、は笑い続ける。
涙を隠さずにそれでも笑えるが強いと思った。
『強くなって戻ってくる』
そう心の中で誓って、俺は微笑んだ。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい!シロ兄!」
終