裏表




会社や学校など、組織と呼ばれるものには必ずといっていいほど異動がある。それは現世でも尸魂界でも変わらない。
護廷十三隊もまた一つの組織であり、異動も必ず行われる。基本、異動を言い渡された隊士に拒否権はないのだが…。

「十番隊に異動だ」
「いやだ」

頑なに異動を拒む隊士がここにいる。
そんな例外を間の辺りにして、十番隊隊長・日番谷冬獅郎は頭を抱えた。眉間に皺を寄せながらもなんとか苛立ちを押さえようとするが、

「聞こえなかった?私、『い・や・だ』って言ったんだけど?耳、遠くなった?若いのに老化?」

馬鹿にしたような口調と、見下したような視線に、日番谷の堪忍袋の緒が切れた。
頭の中でぶちっ、と豪快な音が聞こえたのを境に、日番谷の怒りは一気に爆発する。

「嫌だ、じゃねぇ!もう決まったことだ!わがままもいい加減にしろ!!」

だが、相手もそれに臆することなく、真っ正面から対抗してきた。
日番谷と同じように自分の気持ちをぶつける。

「嫌なものは嫌なの!異動なんてしない!断固拒否!!」
「拒否できるわけねぇだろ!」
「そんなの関係ない!やるといったらやる!!」
「いい加減に……」
「とにかく!十番隊にはぜーったい異動しないから!!」
「こら!逃げんな!!」

日番谷の制止を無視して、彼女はその場から逃げ出した。追い掛けようとしたが、やめた。
瞬歩で移動しているのと、霊圧を完全に消しているため、補足するのは不可能だと悟ったからだ。
だが、それでも怒りを抑えることはできなくて、

「あんのバカ野郎!!」

空に向かって思いきり叫んだ。それでも日番谷の気が晴れることはなかった…。



今回十番隊士の異動を拒否した彼女の名は、
四番隊所属で平隊士だが、決して実力がないわけではない。席官もしくは隊長格と同等の力を持っている
そのため各隊から「ウチの隊に来ないか」と誘われているが、そのたびに拒否している。理由は分からない。
何がを頑なにさせているのか、それが分かるのは本人だけだった。

「また逃げ出したのですか」
「…烈さん」
「日番谷隊長、お困りの様子でしたよ。貴女が何故そこまで異動を拒むのか、悩んでいるようでした」
「だって、私は四番隊が好きだから」
「たしかに貴女はよく働いてくれています。護廷十三隊入隊と同時に四番隊に配属されてから、今までずっと」
「だったら…」
「ですが、今回の異動は総隊長自らお決めになったのですよ」
「おじいちゃんが?」

ほんの一部しか知られていないが、は一番隊および護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國の孫である。
卯ノ花は、のことを知る一部の人だった。だからこそ、

「異動を拒み続ける貴女のことを心配していました。そして、四番隊以外の隊で多くの経験を積むことを望んでいました」

総隊長の気持ちがよく分かった。
二人の間でその話をしたことはないけれど、聞かなくても表情を見れば分かる。
それくらい長い年月を過ごしてきたのだから。

「異動先を十番隊にしたのも、貴女のことを考えたからですよ。日番谷隊長は貴女の大切な友人ですから、きっと大丈夫だと」

それは、も同じだった。
けれど、それでもは首を横に振った。

「おじいちゃんの気持ちは分かるし、すごく嬉しいと思う。でも、ダメなの。十番隊には行きたくないの」
「なぜ十番隊には行きたくないのです?」

卯ノ花にそう尋ねられて、黙り込んでしまう
できれば今すぐこの場から逃げ出したかったが、ニッコリと微笑む卯ノ花を見て、逃亡は不可能だとすぐに悟った。
はぁ、と小さなため息をつき、は小声で言う。

「……冬獅郎君のことが好きだから」

今回十番隊への異動を拒んでいたのは、日番谷のそばにいたらこの気持ちに気付かれてしまうから。
友達としての『好き』ではない。もっと違う、別の意味の『好き』だから。










 (10.03.24)

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