が書類を届けに行っているとき、乱菊は日番谷を見つめて言った。
いつになく真剣な顔で尋ねた内容とは…。
「隊長はいつになったらに告白するんですか?」
「はぁ!?」
「早く告白してください。見てて焦れったいです」
「うるせえよ」
乱菊は大きなため息をつき、日番谷に指を差しながらさらに一言。
「明後日はの誕生日なんです!贈り物して告白しなさい!」
「なんで命令形なんだよ」
「問答無用!絶対ですよ!」
乱菊の眼は、日番谷が拒むことを許さないほど、威光に溢れていた。
『何を言っても無駄だ』という結論に至り、日番谷は大人しく乱菊に従うことにした。
だが、一つ問題がある。
「贈り物は何をやればいいんだ?」
「女の子がもらって嬉しい物に決まってるでしょう」
「女は何をもらえば嬉しいんだ?」
「…隊長、もしかして」
日番谷は誰かに贈り物をあげたことがなかった。
何を渡せば嬉しいのか、全く分からなかった。
「雛森にも何か渡したことないんですか?」
「ない。潤林安にいた頃は贈り物を渡す習慣なかったし」
「に直接聞いたらどうですか?本人に聞くのが一番ですよ」
「そうか」
仕事が終わり、帰り道を歩く日番谷の足取りは重い。
に渡す贈り物で頭がいっぱいだった。
すると、
「日番谷君!」
雛森が声を掛けてきた。
ここは十番隊隊舎。
雛森の五番隊隊舎はかなり離れた場所にある。
偶然にしては出来すぎているし、雛森の口元がニヤニヤしているのがすぐに分かった。
「乱菊さんから聞いたよ。贈り物選び、私も手伝う!」
「…あの野郎」
「日番谷君の恋が実るように頑張るよ!」
「………」
日番谷の眉間には皺が深々と刻まれ、口からは大きなため息が出てきた。
その原因は言うまでもないだろう。
次の日、一日の業務はいつもよりも早く終わった。
乱菊が本気を出したおかげだろう。
定刻に仕事を終えると、執務室に雛森がやってきた。
そのまま外に出ようとしたら、
「隊長、羽織は脱いだほうがいいと思いますよ」
「そうだよ。すごく目立つし、みんな畏縮しちゃうよ?」
乱菊と雛森にそう言われ、日番谷は素直に隊首羽織を脱いだ。
死覇装だけはとても久しぶりで、日番谷はなんだか少し妙な感じがした。
「よし!じゃ、行こうか!」
「おう」
「行ってらっしゃーい」
乱菊に温かい目で見送られ、日番谷と雛森は瀞霊廷内にある商店街へと向かった。
様々な店が立ち並んでいる中で、日番谷は雛森がよく行くという店に足を運んだ。
店内に入ると女性客が多く、日番谷はすごく居心地が悪かった。
そんな気持ちを抑えながら簪を見て回る。
「これはどう?」
そう言いながら雛森は手にした簪を日番谷に見せる。
それは白塗りの軸に、黄色の小花をあしらっているもの。
日番谷はその簪をつけたを想像するが、気に食わないので却下。
次に雛森が見せたのは、白塗りの軸に赤色の硝子玉をあしらったもの。
先ほどと同様に頭の中で想像する日番谷だったが、結果は同じだった。
「もー!日番谷君たら文句ばっかり!」
「うるせえよ」
自分が選んだ簪がことごとく却下されて怒る雛森だが、それを完全に無視して日番谷は簪選びに集中する。
に似合う簪を探す日番谷は真剣そのものだった。
そんな日番谷が、惹かれたものが一つ見つけた。
黒塗りの軸に緑と銀色の硝子玉を数個あしらったもの。
『これだ』と自信を持って言える代物だった。
次の日、日番谷はいつもよりも早く出勤した。
早くに渡したくて、誰もいない静かな執務室で一人待った。
が来るのを心待ちにしていると、
「おはようございます」
「おう」
がやってきた。
だが、日番谷が挨拶した途端、は驚いた表情を浮かべて日番谷のことを見ていた。
「…日番谷隊長」
「なんだよ」
「いえ。今日はいつもより早いんですね」
「今日は特別な日だからな」
「特別…ですか?」
どうやら、今日が誕生日だということを忘れているようだ。
何にも分からない、と顔で訴えている。
日番谷は小さく笑みを浮かべて、に近寄った。
そして。
「誕生日おめでとう」
かなり緊張していたが、顔に出さないように努力して、日番谷はの前に一つの包みを差し出す。
中身は、簪。
一瞬見ただけで、一目惚れした代物。
『気に入ってもらえるだろうか』
そう思い、不安になってしまう日番谷の心。
だが、は日番谷を見て、微笑んだ。
とても嬉しそうに、とても幸せそうに。
は、髪を一つにまとめて、簪を挿した。
「どうですか?」
想像したとおりだった。
その簪はによく似合っている。
日番谷は満足そうに笑い、に言う。
「ああ。よく似合ってる」
「ありがとうございます。嬉しいです。すごく」
終