一年第一組、いわゆる特進学級。
この学級はこの日、魂葬実習のために現世へと向かうことになっていた。
六回生が先導にあたり、実習中は三人一組になって行動するのが決まりとなっている。
クジの結果、日番谷、草冠、の三人一組になった。
「日番谷君、草冠君、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしく」
「か。足引っ張んなよ」
「日番谷!」
睨みつける草冠だが、全く気にしない日番谷。
当の本人は、あはははは、と笑っていた。
各自地獄蝶を持っていることを確認し、
「開錠!」
現世へと続く道を進んだ。
現世に着いた者は皆、滞りなく実習を進めていった。
ほとんどの班が予定された数の魂葬を済ませ、実習を終えている。
ある班を除いては…。
「!魂魄一つ魂葬すんのになんでそんなに時間がかかってんだ!」
日番谷・草冠・の班だけが未だ実習を終えずにいた。
一人少なくても一回は魂葬をしなければならないのだが、が一回も魂葬できないせいだった。
「足引っ張んなよって言ったよな?」
「まあまあ」
「草冠!お前は黙ってろ!」
今までずっと我慢してきた日番谷だったが、もう限界だった。
堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だろう。
は日番谷に対して何も言わず、近くにあった魂魄のもとへ向かった。
その魂魄は小さな男の子で、のことを見た途端、怯えてしまった。
そんな彼にはにこっと笑って、挨拶した。
「こんにちは」
「……………」
何も言わない男の子。
黙ったまま、視線を下へと移した。
そんな彼に、はさらに話しかけていく。
「私の名前はっていうの。よろしくね」
「……………」
男の子はに興味を持ったらしく、少しだけ顔を上げて、に近付こうとした。
ちょうどそのとき。
「おい!!何遊んでんだ!」
突然、二人の前に日番谷が現われた。
遠くから見ていたのが、一向に魂葬する気配がないに腹を立て、怒鳴り込んできたのだ。
すると、男の子は怯えてしまい、その場に縮こまってしまった。
それを見たは、日番谷のことをキッと睨んだ。
「あーあ!怖がっちゃったじゃない!日番谷君のバーカ!」
「バ…!」
「草冠君、もう少し待てる?」
「俺は大丈夫だけど、問題は日番谷じゃないかな?」
「それじゃ、お願い。日番谷のこともう少し抑えてて」
「……分かった。でも、できるだけ早く頼むよ」
「了解!」
日番谷のことを全て草冠に任せると、はもう一度男の子に近付いた。
もう一度微笑みかけるが、男の子はのことも怖がってしまっている。
は目を閉じて、ゆっくり息を吐いた。
そして。
「これは……」
「……歌?」
離れた場所にいる日番谷と草冠にも届いた、の歌。
それは歌詞のない歌。奏でるのは心の声。
ふわふわした、やさしい気持ちが夕闇の空に溶けていく。
歌い終わると、は男の子に近寄り、優しく微笑んだ。
すると、男の子の目から大粒の涙が零れ落ちた。拭いても拭いても溢れ出る涙。
は男の子をぎゅっと抱きしめる。
の鼓動が男の子へと伝わっていく。
ドクン、ドクン。
心地よい音、優しい温もり。
男の子に笑顔が戻っていく。
「ありがとう。おねえちゃん」
「大丈夫?」
「うん。もう大丈夫」
そう言って、男の子は笑った。
心からの笑顔を見ることができて、も微笑む。
名前のない斬魄刀・浅打を抜き、男の子の頬にそっと触れた。
男の子が少しずつ消えていく。その様子を見つめながら、は笑顔で言う。
「今度会うときはたくさん遊ぼうね!」
「うん!またね!」
そう言うと男の子はの前から消えた。尸魂界へと向かったのだ。
はしばらくの間、静かに空を見つめていた。
尸魂界への帰り道。
大きなため息をつく日番谷。
心身ともに疲れ果てていた。
「はぁ…。疲れた……」
「年寄りみたいだね、日番谷君。一番若く見えるのに」
「誰のせいだと思ってんだよ!」
草冠は『やれやれ』と思いながら二人のやりとりを見守っていた。
いつもなら日番谷との言い争いの止めに入るのだが、今の草冠にそんな元気は残されていない。
日番谷同様、草冠も今回の実習で疲れたのだ。
「そもそもお前がさっさと魂葬していればこんなに疲れることもなかったんだぞ!」
「だって。魂魄見つけて即魂葬って嫌なんだもん。最後に笑ってほしかったんだ」
「……お前、本当に変なヤツ」
「あはははー。それほどでもー」
「褒めてねえよ」
終