真央霊術院・卒業検定の前日。
修練場では日番谷冬獅郎と草冠宗次郎が打ち合いをしている。
日番谷の木刀と草冠の木刀が打ち合う音が響く。
は、二人の邪魔にならないように、その様子を遠くから見つめていた。
「どうした?冬獅郎!そっちが来ないならこっちから行くぞ!」
「調子に乗るなよ!草冠!」
日番谷も草冠も楽しそうだった。はとても嬉しくて、ほんの少し羨ましかった。
勝負がついた。草冠の木刀が宙を舞う。日番谷の勝ちだった。
それでも草冠は笑っている。日番谷も笑っている。
そんな二人を見て、はようやく二人に近寄る。
草冠は笑顔のままのほうを見たが、日番谷は無愛想になってしまった。
「いよいよ明日は卒業検定だね」
「ああ。は残念だったね」
草冠は残念そうにを見た。
今年、は卒業検定を受けることを認められなかった。日番谷や草冠と一緒に卒業することはできない。
そんな草冠を見て、は首を横に振りがら言う。
「『卒業するにはまだ早い』って。先生の言ったことは正しいよ」
「そうだな。お前にはまだ早い」
「冬獅郎!」
草冠は日番谷を睨むが、当人は全然気にしていないようだ。
一方、は笑みを浮かべている。
今日は笑っていようと決めていた。何があっても、絶対に笑顔で見送ろうと。
が無理をして笑っていると、草冠はすぐに分かった。もちろん日番谷も。
の気持ちが分かるから草冠は何も言わずに黙っていた。
三人の間に少しだけ重い空気が流れている。それを見て、日番谷は小さくため息をついて、呟くように言う。
「お前は肩に力が入りすぎてんだよ。気負いすぎだ」
「冬獅郎君…」
「あと一年経てば余分な力が自信になる。だから、来年必ず合格しろ」
日番谷の言葉を聴いて、の頬に熱い何かが流れていく。
泣かないと決めていたのに、笑っていようと思っていたのに。
こんなにも容易く崩れてしまったの意地。
それなのに、悔しい気持ちは全くなかった。
不器用だけど日番谷の気持ちがの心に伝わって、すごく嬉しかった。
草冠は微笑みながらの頭を撫でる。
二人の優しさに触れて、は心から笑うことができた。
「絶対に追いつくからね」
笑顔で先行く二人へ思いを託す。
「先に行って待っているよ」
「俺は気が短いからな。一年しか待たねえ」
自分たちの後を追う者へ思いを繋げる。
いつか必ず会える。
三人で笑い合える日を、そんな幸せな未来を信じていた。
終