どうして今のままでは駄目なんだろう?
どうしてそれ以上を望んでしまうのだろう?
「隊長、少しお休みになってはいかがですか?」
「大丈夫だ」
「お言葉ですが、大丈夫に見えません。お願いですから休んでください」
「……分かった。少しだけ休む」
無理する日番谷を止めるのは部下として。
もしも日番谷に倒れられたら十番隊全ての隊士が困ってしまうから。
「日番谷君、甘味屋さんに行かない?」
「なんでだよ」
「他の人を誘ったら都合が悪いんだって。一人で行くのもつまらないし、お願い!」
「しょうがねえな。その代わりお前がおごれよ」
「えぇ!私がおごるの?」
甘味屋や食事を誘うのは同期として。
気楽に話しかけたり外に連れ出したりするのは仕事の疲れを取ってもらいたいから。
「冬獅郎、今日は暇?」
「別に用事はねえけど。今度は何の相談だ?」
「えっとね……」
「……分かった。今日は俺の部屋に来い。話聞いてやる」
「ありがとう」
他の人には言えない相談するのは親友として。
『冬獅郎だから言える』って思えるから。
日番谷隊長の部下として、日番谷君の同期として、冬獅郎の親友として。
は今までずっと過ごしてきた。
これからもずっと過ごしていくと思っていた。
それなのに、いつから変わってしまったのだろう?
「俺は少し出てくる。その間お前は休んでろ」
「ご一緒しなくてよろしいのですか?」
「構わん。五番隊に行くだけだ」
日番谷の口から『五番隊』という言葉を聞いた途端、の中で何かが軋んだ。
五番隊副隊長の可愛らしい笑顔が浮かんで、心がすごく痛かった。
「どうした?」
「いえ、何でもありません。雛森副隊長によろしくお伝えください」
「ああ。分かった」
そう言うと、日番谷は執務室から出て行った。
の異変に気付くことなく、後ろを振り返ることなく。
それが少し嬉しくて、すごく悲しかった。
「少し失礼するよ」
「……藍染隊長」
「やあ、久しぶりだね。君。日番谷君はいないのかい?」
「隊長は……少し前に五番隊に向かわれました」
「そうか……」
「どうしますか?隊長が戻られるまでこちらでお待ちになりますか?」
「いや、大丈夫だよ。今日は君に用事があって来たんだ」
「私に……ですか?」
「ああ。君に聞きたいことがあってね」
「聞きたいこと?」
「僕の力になってくれないかい?」
「藍染…隊長?」
「君の力が必要なんだ」
に差し伸べられた手。
それは闇の世界へと導く手。
頭では理解していた。
けれど、拒むことはできなかった。
その手を取ってしまうほど、の心は弱くなってしまっていた。
連れ去ってくれるのなら構わなかった。
日番谷から離れられるのならどうでもよかった。
終