「失礼します。九番隊の檜佐木です。さんはいますか?」
「どうぞー」
もう一度「失礼します」と言った後、檜佐木は十番隊執務室へと足を踏み入れた。
中に入って一番最初に目にしたものはソファに寝転びながらお菓子を頬張るだった。
檜佐木は呆れながら小さくため息をつく。そんな檜佐木を見て、
「檜佐木も食べたいの?」
そう言ってはお菓子を持っているほうの腕を上げた。
それに対し、檜佐木は首を左右に振り、
「腹減ってないんで」
と丁重に断った。
はお菓子を上へと放り投げ、落ちてくるそれを器用に口の中へと運んだ。
そして、ゆっくりと味を楽しむ。
その様子を黙ったまま見つめながら『乱菊さんとそっくりだ』と思う檜佐木だった。
同時に『日番谷隊長は大変だなー』とも思った。
眉間に深々としわを刻ませながら黙々と仕事する日番谷の姿が目に浮かび、「ご苦労様です」と心の中で呟いた。
檜佐木が日番谷に同情していたそのときだった。
「で。お前はいつまでそうしてるつもりだ?」
にそう言われた。
檜佐木がハッと顔を上げると、視界にはの満面の笑顔が広がる。
だが、それを見た途端、檜佐木は背筋をビシッと伸ばし、
「すみませんでした!!」
全力で謝った。何故ならが檜佐木に満面の笑みを浮かべるときは、十中八九、怒っているときだから。
けれど、
「私は、お前はどうしてここに来たのか、その理由が知りたいんだが?」
は謝罪の言葉を聞きたいわけではなかった。
徐々に上がっていくの霊圧を全身で感じながら檜佐木はようやくここに来た理由を口にした。
「日番谷隊長と乱菊さんとさん、三人の原稿を受け取りに参りました!!」
九番隊が代々編集・発行を手がけている瀞霊廷通信。
日番谷や乱菊、は連載を持っていて、今日が締切日なのだ。
それを聞いては霊圧を少しずつ下げていく。
はソファから立ち上がると、自分の机のほうに移動し、引き出しから封筒を二つ取り出して檜佐木に差し出す。
それは日番谷との原稿だった。
はいつものように笑い、檜佐木に言う。
「乱ちゃんは『あとで届けに行く』って言ってたよ」
「はい!ありがとうございます!!」
檜佐木はから封筒を受け取り、安心することができた。
だが、そんな檜佐木を見つめながら、は言う。
「でも、檜佐木はもう一度、礼儀作法を叩き込んだほうがいいかもしれないね。
今からやろうか?今度は徹底的に、手加減無用で」
「…いいえ!結構です!!」
「遠慮なんかしなくていいよ?二度と忘れないようになるよ?」
間違いなく心も体も忘れられなくなるだろう。
だが、檜佐木はの礼儀作法講座を想像するだけで体が震えて止まらなくなってしまう。
『もうあんな思いをするのは嫌だ!!!』
檜佐木の心がそう叫んでいる。
「俺、忙しいんで!失礼しました!!」
そう言って檜佐木は一目散に執務室を後にした。
は小さくなっていく檜佐木の背中を眺めながら笑った。
小さかった声はだんだん大きくなっていき、
「あははははは!!」
最後は大声で笑うだった。
なんだかすごくおかしくて、笑いが止まらない。
しばらくの間、の笑い声は続き、十番隊隊舎に響いていた。
終