五番隊に所属していたとき、は藍染や市丸と接することが多かった。
上位席官の中でもは特に気に入られていたらしい。
しょっちゅう執務室に呼ばれ、彼らの下で仕事していた。
当時副隊長だった市丸が三番隊の隊長になることが決まり、新しい副隊長が誰かを皆で話していた。
が副隊長になるのではないかと噂が囁かれるようになった。
そんなとき、は雛森の存在を知った。
偶然、隊士たちが話しているのを聞いてしまったのだ。
藍染を心から敬愛していること。
藍染に近付くために必死で努力してきたこと。
という存在に心を痛めていること。
が聞いていることを知らずに、彼らは話し続けた。
そして偶然は重なり、は雛森を見かけた。
雛森は藍染に話しかけていて、すごく嬉しそうで、すごく幸せそうだった。
話が終わり藍染が離れていっても、雛森は藍染のほうを見つめていた。
さっきの表情は一変し、とても切なそうで、とても寂しそうだった。
そんな二人を見て、は逃げるようにその場から立ち去った。
そうしなければならないほど、雛森の表情がの心に深く焼きついた。
数日後。
「異動願だって?」
「ああ。この書類に印を頼む。藍染」
執務室の中に入ってすぐに、は異動することを藍染に伝えた。
用意していた異動願を藍染の前に差し出す。
書類を見て、を見る藍染。
驚きを隠せないようで、今の藍染にいつもの笑みはなかった。
それでもは黙ったままだった。
そんなを見て小さく息を吐くと、藍染は書類に手を触れて尋ねる。
「何故、五番隊を離れるのか、聞いてもいいかな?」
「他の隊で経験を積みたいから」
嘘ではない。
今までもいろんな隊に異動してきた。
全ては経験を積んで自分自身を高めるためだ。
この気持ちに嘘はない。
「君を新しい副隊長に推薦しようと思っていたんだが、それを聞いても決心は変わらないかい?」
「変わらない。私はさらなる高みを目指す」
「そうか…」
ようやく藍染は、に笑った。
小さい笑みだったが、しっかりと笑ってから書類を受け取り、印を押す。
そして、に書類を手渡した。
は書類に手を触れる。
すると、
「君。僕が君の力を必要としたとき、僕に協力してくれるかい?」
突然、空気が変わった。
藍染の霊圧が濃くなっていく。
藍染の瞳が強い意志で満ちていく。
は、こんな藍染を見るのは、初めてだった。
呑まれそうになる自分を律し、は藍染に答えた。
「さぁ?そのときにならないと分からないな。私は気分屋だから」
威圧されているのにも関わらず笑みを浮かべている。
藍染はそんなをじっと見つめていた。
そして、藍染はふっと笑った。
「君らしいな」
次第に空気が元に戻っていく。
は書類を受け取り、藍染を見る。
藍染はいつものように笑っていた。
「五番隊から離れても君は僕の部下だ。それは忘れないでくれ」
「ありがとう。藍染」
終