十番隊隊舎・執務室にやってきた地獄蝶。
の元へやってきて、頭のてっぺんに止まった。
『四番隊副隊長虎徹勇音です。お仕事中すみません。実は今、四番隊は人手が足りなくて困っています。すぐに綜合救護詰所に来てもらえますか?よろしくお願いします』
に伝わってくる勇音の声。
聞いただけで疲れた顔をした勇音が容易に想像できるほど暗い声だった。
はくるりと振り返り、真面目に仕事をしている日番谷に話しかける。
だが、特大饅頭をくわえたままなのできちんと発音することはできなかった。
「…ふぁいひょー」
「ちゃんと食ってからにしろ」
「ふぁーい」
日番谷に言われたとおり、は饅頭を食べることに集中する。
食べるたびに口の中にあんこの甘さが広がり、最高だった。
は、また買いに行こうと心に誓い、最後の欠けらを食べ終えた。
お腹も心も満杯になり、元気いっぱいになった。
は口の周りを綺麗に拭くと、ソファで寝転んでいた身体を起こした。
そして、日番谷のほうを向いてびしっと敬礼する。
「ちょっと出かけてきます!おやつの時間には戻ってきますから!」
「おい!今は仕事中だ!」
サボりだと思っているらしく、日番谷はが出かけることを許さなかった。
日番谷が冷たい視線で威圧してくるが、そんなことで動じるではない。
説明を全て乱菊に任せては瞬歩で綜合救護詰所へ向かった。
四番隊・綜合救護詰所に着いた途端、は四番隊の現状を何も言わず見つめていた。
隣には勇音が苦笑いを浮かべながら立っている。
は前を見つめたまま勇音に言う。
「……人手が足りなくて困ってる、ねぇ」
「………えーっと。困ってるでしょ?」
確かに四番隊隊士は忙しく動いているし、人手が足りないとも言える。
だが、困っているのは人手が足りないのが理由ではないとは断言できた。
「十一番隊が暴れてるから困ってるんでしょう?」
「……………」
にそう言われ、勇音は何も言えなくなってしまった。
現に、目の前で十一番隊の隊士が騒いでいるのだから反論できるはずがなかった。
四番隊と十一番隊は仲が悪い。
といっても、十一番隊の隊士が四番隊の隊士を一方的に嫌っているだけなのだが。
俯いたまま顔を上げようとしない勇音を見て、は優しく微笑み言う。
「怒ってるわけじゃないよ。だからそんなに気にしないで」
「……うん。ごめんね、ちゃん」
「大丈夫だよ」
ようやく顔を上げた勇音。
そんな勇音にもう一度微笑み、は病室の中に入っていった。
「やめてください!」
「やめて欲しけりゃ力ずくで止めればいいだろ。相手になってやるぜぇ!」
「ふーん。じゃ、お言葉に甘えて相手になってもらおうかな」
第三者の声を聞いた途端、十一番隊の隊士は固まってしまった。
その状態で後ろを振り返ろうとしているのだが、その動きはまるで機械のようだった。
この場にいる全員がギギギギという音が聞こえたような気がするほどだった。
彼らが完全に振り返ると、すぐ近くにが立っていた。
はにっこりと笑っているのだが、彼らには引きつった笑みしか返せない。
「……さん…」
「い…いらしていたんですか?」
「うん。ちょっと遊びに来たんだけど、なんだかすごーく楽しそうな話をしてたからつい口を出しちゃった」
十一番隊の隊士から汗がダラダラと流れ出ていく。
彼らの引きつった笑顔がさらに引きつっていくが、は変わらず笑顔だった。
「あのー、自分たち怪我人なので……」
「大丈夫!さっきの様子を見てたけど、すっごく元気じゃん!それに、何かあってもここは治してくれる場所だから」
は、彼らの肩をぽんっと叩き、最高の笑顔で言う。
「それじゃ、殺ろうか!」
その日、耳を塞ぎたくなるような悲鳴が瀞霊廷内に響き渡ったという。
終