「失礼します。三番隊の者ですが、日番谷隊長はご在室でしょうか?」
扉を叩く音と共に聞こえた、声。それを聞くや否や、は自然と笑みを浮かべた。
手にしていた筆を置いた後、視線を下から正面にずらし、
「どうぞ」
外にいる者へ入室を許した。
まもなくして中に入ってきたのは、
「失礼します」
「やっぱり!吉良だー!」
三番隊士副隊長吉良イヅルだった。
はじめのうちは満面の笑顔を見せていただったが、それも急激に雲っていく。
「しまった」というように、ばつが悪そうに、口に手を当てる。
それに対して吉良は笑顔で言う。
「吉良、でいいですよ」
「でも…」
「そう呼んでください。その方が嬉しいです」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
は、ゆっくりと深呼吸した後、笑みを浮かべてもう一度吉良の名前を呼んだ。
「久しぶりだね、吉良」
「お久しぶりです。先輩」
「本当なら吉良"副隊長"って呼ばなくちゃいけないのに…悪いね」
「いいえ。吉良って呼ばれる方が嬉しいです」
「そう?ならいいんだけど」
「そういえば、日番谷隊長はいらっしゃらないんですか?」
「隊長は総隊長に呼ばれて一番隊舎に行ったんだ。もう少しで戻ってくると思うけど、急ぎの用?」
「いえ。今回は今度行う三番隊と十番隊合同任務の打ち合わせで」
「へぇー。三番隊と十番隊で合同任務なんて珍しいね」
「僕もそう思います」
「でも、打ち合わせって隊長同士か副隊長同士でやるものじゃないの?」
合同任務の打ち合わせは各隊の責任者が行うものだから、隊長と副隊長でも問題はないが、珍しい。
率直な疑問を問い掛けると、吉良は苦笑いを浮かべながらそれに答えた。
「隊長同士で打ち合わせはまず無理でしょう」
「……たしかに」
三番隊隊長・市丸ギンと十番隊隊長・日番谷冬獅郎。二人の不仲説は結構有名である。
市丸はよく分からないが、日番谷は市丸のことが気に入らないらしい。
「副隊長同士の打ち合わせは日番谷隊長から止められました。『松本は打ち合わせと称して飲み会をやるだろうから』と」
「……なるほど」
護廷十三隊屈指の酒豪であり、飲み会大好きの乱菊。
日番谷の言う通り、打ち合わせは飲み会になってしまうだろう。
それらを聞いて、三番隊と十番隊の打ち合わせは日番谷と吉良で行うのが一番いいことがよく分かった。
は小さく笑みを浮かべると、席を立った。
そして、ゆっくりと体を伸ばしながら、吉良の方を見て、言う。
「ソファに座って待ってて。今、お茶入れるから」
「えっ?いいですよ。出直してきますから」
「待ってた方がいいって。隊長もうすぐ戻ってくるから」
「でも…」
「それとも何?私のお茶飲みたくないなんて…」
「いただきます!」
そう言って、直立不動の姿勢をとる吉良に笑みを浮かべて、は給湯室に向かった。
終