「失礼いたします」
十番隊隊舎・執務室で、日番谷がいつもどおり仕事をしていたら、珍しい人物がやってきた。
それは十二番隊副隊長涅ネムだった。
「お前、たしか十二番隊の…」
「涅ネムと申します。さんはいらっしゃらないのですね」
辺りを見回した後、ネムは日番谷に尋ねる。日番谷は小さく頷き、答えた。
「は今、書類を届けに行ってるところだ。なんか用か?」
「はい。以前、さんに頼まれたものが完成しましたので、それを伝えに参りました」
「わざわざ言いに来なくても、地獄蝶か伝令神機を使えばいいだろ」
「さんに言われたんです。『直接言いに来て欲しい』と」
無表情のまま、淡々と言うネム。
そんな彼女の感情は分からないが、日番谷は少し同情した。振り回される側の気持ちはよく分かるから。
「それでは、さんが戻りましたらお伝えください。『注文どおりにできました。忘れずにお金をお支払いください』と」
「分かった。伝えとく」
「お願いいたします」
そう言ってぺこりと頭を下げると、ネムは執務室から出て行く。
日番谷はそれを眺めながら、がネムに頼んだものがなんなのか、気になっていた。
「何を頼んだんだ?あいつは…」
その後、日番谷は気になって仕方が無くなってしまい、仕事が捗らなかった。
「ただいま戻りましたー」
「おう」
それからしばらくして、が戻ってきた。日番谷はポーカーフェイスのまま、書類とにらめっこしていた。
は自分の席に着いた途端、べたっと机にうつぶせる。仕事をする気配は全くない。
日番谷は大きくため息をついた。
「隊長、ため息ついたら幸せが逃げていきますよ?」
「書類が減らない限り無理だな」
「それなら全部燃やしてしまいましょう!景気よくパーッと!では、さっそく!!」
「や・め・ろ」
嬉しそうに笑いながら死覇装の袖を捲るを、日番谷が止めた。
そして、日番谷はさらに深くため息をつく。
「幸せ全部逃げちゃいますよ?」
「……そういや、十二番隊の涅が来たぞ」
「涅って…ネムちゃんですか?」
「ああ。お前が頼んでいたやつができたとか」
「えっ!本当ですか!?」
日番谷はネムから頼まれた伝言を伝えた。
それを聞いたは嬉しそうに、ニコッと笑っている。
「隊長!出かけましょう!」
「はぁ?ちょっと待て!」
「待てません!待ちません!」
日番谷はに手を引かれ、無理やり、連れ出された。
瞬歩であっという間に着いた場所。瀞霊廷の端っこに位置するそこには、花が一面に敷き詰められている。
それは、真っ白い彼岸花だった。
「…………」
日番谷は静かに見ている。
言葉が上手く出てこない。それくらい目の前の景色は美しかった。
「現世には白い彼岸花があるって聞いて、ネムちゃんにお願いして作ってもらったんです」
「……そうか」
「綺麗でしょう?」
「ああ。そうだな」
それから日番谷とは白い彼岸花を見つめていた。
二人きりで、ずっと。
終