「失礼します。十番隊です」
「どうぞ」
中から了承を得たので、は一番隊隊舎執務室の扉を開ける。
室内にいるのは副隊長の雀部長次郎だけだった。
元柳斎の姿が無いことを念入りに確認し、はホッっとひと息をつく。
「どうしました?」
不思議そうに自分を見ている雀部。
「いえ!どうもしませんよ!」
は慌てて首を横に振り、笑みを浮かべる。
そして、持ってきた書類を雀部に手渡す。
「先日の任務の報告書を届けに参りました。一度、確認していただけますか?」
「分かりました。ただいま確認するので少々お待ちを」
雀部はが持ってきた報告書を受け取り、確認する。
さすが一番隊副隊長というべきだろう。
雀部はすぐに確認を終えてに笑顔を見せた。
「大丈夫です。問題ありません」
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀する。
そして、隠し持ってきた物を雀部の前に差し出した。
「これはお約束の品です。どうぞお受け取りください」
の言葉を聞いた途端、雀部は緊張した面持ちでを見た。
『約束の品』を受け取り、ゆっくりと包みを開ける。
「これは!」
その中に入っていたもの。それは…。
「素晴らしい!」
「お気に召していただけたようで何よりです」
紅茶栽培の本だった。
以前、雀部に「任務で現世へ行く際は買ってきてほしい」と頼まれていた物だ。
先日、購入したばかりの代物で、店の人もお勧めだと言っていた。
今回の現世任務はこれを買うために行ってきたと言っても過言ではない。
「では、報酬のほうは…」
「次回の給料日を楽しみにしていてください」
「それを聞いて安心しました。では、私はこれで失礼します」
は早急に一番隊をあとにする。
しばらく歩いた後、近くに誰もいないことを確認し、ガッツポーズをした。
「やったね!」
「何が『やったね!』なんだ?」
背後から聞こえた、聞きなれた声。
は、ゆっくりと後ろを振り返る。
「なんか良いことがあったみたいだな??」
いつからそこにいたのか、すぐそばに日番谷が立っていた。
日番谷は笑みを浮かべているが、にはそれが鬼のように恐ろしく見えた。
自分の口元が引きつっていくのが分かる。
「えへ?」
「『えへ?』じゃねえ!詳しく説明しやがれ!!」
日番谷の怒りが爆発した。
は「ごめんなさいー!」と言って、瞬歩で逃げた。それを追う日番谷。
「逃がすかよ!」
と日番谷。二人だけの鬼事が始まった。
いつまで続くのか、いつになったら終わるのか。
逃げているほうも、追いかけているほうも、分からない。
そんな二人を遠くで見ている者が一名。
「今日も仲良しねぇ」
そう小さく呟きながら乱菊はサボりに出かけた。
尸魂界は今日も平和だ。
終