『お年寄りは大切に』
ふと、そんな言葉がの頭に思い浮かんだ。
「お年寄りか…」
小さく呟くと、は瞬歩で姿を消した。
誰にも(怒りやすい彼には特に)見られないように、目的の場所へと向かう。
もちろん、霊圧を完全に消すことは忘れずに…。
「ご無沙汰しております。総隊長」
一番隊隊舎内にある茶室に足を踏み入れると、は丁寧に頭を下げて挨拶する。
目の前には護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國の姿がある。
いつもの威厳に溢れる姿ではなく、普通の優しい老人だった。
のんびりと日向ぼっこをしながら元柳斎は言う。
「普通に呼べ」
「では。久しぶりだね。爺ちゃん」
「久しいのぅ」
「そうだね。最近は忙しくてお茶会にも参加できなかったから」
元柳斎の隣に座る。
さらに元柳斎の身体に寄りかかるが、とがめられることはなかった。
は護廷十三隊に入隊して一番隊に配属された。
そして、元柳斎にいろんなことを教わった。
時に厳しく、時に優しく、元柳斎は自分の知識の全てをに教えた。
は元柳斎を実の祖父のように慕い、元柳斎はを実の孫のように可愛がっている。
それは昔も今も変わらない。
きっと、これからもずっと…。
「今日はどうしたんじゃ?」
「どうもしないよ?なんとなくね、爺ちゃんに会いたいなって思ったの」
「そうか」
それからはも元柳斎も話すことをしなかった。
縁側で二人仲良く陽に当たる。それだけで十分だった。
風が頬を撫でる。
雲がゆっくりと流れていく。
平和に、穏やかに、時間が過ぎていく。
しばらくして、二人の下に地獄蝶がひらひらと近付いてきた。
それはの指に止まり、伝令を伝える。
『!どこで油を売ってやがる!早く戻って来い!!』
上司の顔が浮かんだ途端、は頭が重くなった。
小さくため息をつき、隣にいる元柳斎に謝る。
「ごめん、爺ちゃん。そろそろ戻らなくちゃ」
「もう少し話をしたかったんじゃがな…」
「今度の茶会は参加するよ」
「待っておるぞ」
は元柳斎から離れ、姿勢を正す。
孫の顔から、護廷十三隊隊士の顔へと戻る。
「では、失礼いたします。総隊長」
はスッと立ち上がり、瞬歩で消えた。
一人残された元柳斎は、少し寂しそうに目を細めながら、空を見上げた。
「十番隊三席!ただいま戻りました!」
「てめえ、今までどこで何してた!!」
が十番隊隊舎執務室に戻ると、日番谷の怒鳴り声が耳に響いた。
さらに日番谷の鬼のような形相を見てはますます頭が重くなるが、笑顔を崩さないように努力する。
「あははは〜。そんな顔しないでくださいよ〜。せっかくの美形が台無しですよ〜?」
「誰のせいだと思ってんだ…」
「仕事のせいですよね!じゃ、今日の業務は終わりにしましょう!」
「!!」
「あはははは〜!」
日番谷の叫び声が十番隊隊舎中に響き渡る。
いつものことなので、十番隊隊士は気にも留めずに仕事を続けていた。
尸魂界は今日も平和だ。
終