夢の通路-かよいじ-




飲まなくちゃやってられないときもあるわ。
浴びるくらい酒飲んで、バカみたいに大騒ぎして、最後は疲れて眠っちゃう。
そうして現実から目をそらしたいの。
全部夢だったら、なんて都合のいいことを考えてしまうけれど。
目覚めたら辛い現実が待っていて、そのたびに苦しい思いをするけれど。
それでも、ほんの少しだけいいから、良い夢を見ていたいの。



一番最初に目覚めた時、乱菊の気分は一番最悪だった。
頭はガンガンして痛いし、目がぐるぐると回って気持ち悪い。
原因は分かっているし、それが自分にあるということもよく分かっている。
だが、それでも自分から起きようとはしない……否、できなかった。
今の乱菊は、体をほんの少し動かしただけで吐気がして、指一本動かせない状態だった。
目を閉じてもう一度眠ろうとした、そのとき。

「乱菊さーん。起きてくださーい。朝ですよー」

上の方から声が聞こえた。
その声を聞いて、さらにガンガンする頭を押さえながら、乱菊は何とか答えた。

「……ムリ」

それで相手が諦めることを心から願ったが、それは叶わぬ願いだったようだ。声は容赦なく降り注ぐ。

「無理じゃないでーす。早く起きてくださーい」
「……ムリだってば」
「遅刻しちゃいますよー。隊長に怒られちゃいますよー」
「……体調不良で休むって言っといて」
「隊長から伝言です。"どうせ二日酔いだろ、自業自得だ。時間内に来なかったら問答無用で給料減らすからな"」
「隊長の鬼ー!」
「そんなに大きな声出せるなら大丈夫ですね。さっ、早く支度して行きましょう!」
の人でなしー!」

刹那、乱菊の思考が止まった。

『今、私は誰のことを呼んだ?』

すぐに答えは出た。だが、それは本当に合っているか、自信がなかった。
都合のいい夢を見ているのかもしれない。現実か、夢か。確かめなければ。
夢から覚めて、乱菊が一番最初に見たもの、それは…。

「おはようございます。乱菊さん」

だった。
手紙を残してどこかに行ってしまって、双極の丘で倒れてから目を覚まさなくて、ずっと会いたかったが目の前にいる。笑みを浮かべて自分を見つめている。

ー!!」

乱菊はに抱きつき、その小さな体を思いっきり抱き締めた。手加減なんかしない…できない。
に会えたことが信じられなくて、が会いに来てくれたことが嬉しくて、自分を抑えられない。
乱菊の抱擁はしばらくの間続いた。
の温もりを感じながら、乱菊は『やっと夢から覚めた』と心から思うことができた。


「おはよーございまーす!」
「おはようございます」

始業時間より少し遅れて、乱菊とが執務室にやってきた。
だが、日番谷がそれを怒ることはなかった。二人の笑顔を見たら、そんなことできるわけがない。
何も言わず二人を見つめる日番谷に自然と笑みが浮かんだ。










 (09.11.11)

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