大切なもの




「い…一護…。…。聞くが…これからどうする気だ…?これ程の目の前で上手く姿を晦ませる方法など…」
「逃げる」
「む…無理だ!相手は隊長だぞ!!逃げ切れる訳が…」
「じゃあ全員倒して逃げるさ」

気持ちいいほどはっきり言う一護に、は驚いたが無理だとは思わなかった。
今の自分なら、何でもできるような気がした。
それは、一護のおかげだった。
眼差しから、言葉から、一護の力が流れ込んできた。
すると、一護はのほうを見て、尋ねる。

。ルキアを連れて逃げられるか?」
「んー。ルキアを抱えて逃げるのは無理だね…」

ここから早く逃げるには、ルキアを抱えるのが一番いい方法だ。
けれど、ルキアよりも小さいがそれをするのは不可能だ。
は曼珠沙華に頼もうとしたが、やめた。
味方が近付いているのを感じたから。一人はすぐそこまで来ている。
それは……。

「恋次!!!」
「ルキア!!!」

体中包帯を巻かれて、恋次がやってきた。
白哉に挑み、敗れたことは知っていた。
霊圧が消えて、弱々しい魄動しか感じられなくて、心配した。
治療してくれた花太郎に、花太郎を呼んでくれた理吉に、は心から感謝した。

「恋次君、無事で良かった…」
「良かった!生きておったのだな、恋次!!良かっ…」

恋次を見て安堵するとルキア。
だが……。

「恋次!」

一護は違った。
恋次の名を呼び、片腕――ルキアを抱えているほう――を上げた。
それを見て、は無性に嫌な予感がした。
それはルキアと恋次も同じようだ。
三人とも『まさか』と思いながら、そうでなければいいと願っていたが、表情を強張らせている。
けれど……。


「受け取れっ!!!」


その『まさか』だった。
上げていた腕を振り下ろす一護。
恋次に向かって、ルキアをおもいっきり投げたのだ。


「きゃあああああああああ!!!!」
「ルキアあぁぁ―――――!!!!」
「馬鹿野郎―――――――!!!!」


刹那。三人の絶叫が響き渡った。
ルキアを受け止める恋次。
瞬歩で磔架から降りて恋次の体を支える
凄まじい速度と凄まじい衝撃に耐えるルキア。
けれど、


ずさぁ


ゴロゴロと転がる三人の身体。
数メートル先まで移動した後、ようやく止まった。


「莫迦者!!一護貴様ぁ!!!」
「落としたらどうすんだこの野郎!!!」
「ちょっとは考えてから行動しなさい!!!」

三人三様の叫び声を上げ、三人同様の怒りをあらわにするが……。

「連れてけ!!!」
「な…」
「ボーッとしてんな!!さっさと連れてけよ!!てめーらの仕事だ!死んでも放すなよ!!」

と恋次は、一護の言葉を聞いて、気付いた。
互いに顔を見合わせ、二人は小さく頷くと、ルキアを連れて走り出した。
後ろを振り返ることなく、ひたすら前へ進む。



今、ここにいるのは、ルキアを助けるため。
ルキアを助けたくて、ここまでやってきた。
そして、ようやく手にすることができた、大切なもの。
もう二度と、この手を放さない。










 (09.09.09)

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