「朽木隊長はどんな方ですか?」
「朽木?あいつとはあんまり話したことねえからよく分からねえな」
「そうですか…」
「朽木がどうかしたか?」
「実は……朽木家に来るように言われまして」
「はぁ!?」
【回想】
十番隊隊舎・執務室で、はいつものように仕事をしていた。
日番谷は隊首会、乱菊は書類を届けに行っているため、の他に誰もいなかった。
一人、は黙々と書類の処理を行っていた。
すると、
「失礼いたします。様はご在室でしょうか?」
襖の向こうから声が聞こえた。
聞き覚えのない声にはじめは首をかしげるだったが、
「はい。中へどうぞ」
手を止めて入室を許可した。
そこにいたのは一人の老人だった。
は、丸い銀縁眼鏡をかけた彼に、見覚えがある気がした。
いつ・どこで見たのかは思い出せなかったが。
「貴方は…」
「朽木家に仕えております清家と申します」
清家の口から朽木家という言葉を聞き、はようやく思い出した。
ルキアの手紙を朽木家に持っていくときに清家を見かけたことを。
「本日は白哉様より様にこちらの書状を言付かってまいりました」
そう言って清家はの前に手紙を差し出した。
見るからに高級そうな手紙だった。は詳しいことは分からないが、相当高い気がした。
清家から手紙を受け取ると、は恐る恐る開封した。
手紙には達筆な字でこう書かれている。
『おぬしに聞きたいことがある。本日夕刻我が屋敷に参られたし』
「これは…」
「それでは、お待ちしております」
清家は丁寧にお辞儀した後、執務室から出て行ってしまった。
状況が飲み込めないは、手紙を見つめたまま口をぽかんと開けていた。
【回想終了】
「朽木隊長とは一度もお会いしたことがないんですけど」
「どうすんだ?」
「行きますよ。来いと言われた以上、行かないと失礼ですし」
「そうか…」
「きちんとした格好で行かないと駄目ですよね。相手は四大貴族のご当主ですし」
「…………」
「隊長?」
「悪い。ちょっと出かけてくる」
「はい。行ってらっしゃい」
『朽木の家に行く?それはどういう意味だ?くそっ!分かんねえ!!』
は朽木家の屋敷へとやってきた。
迷いに迷った末、選んだ服装は水色の着物に桜色の帯にした。
大きな門の前ではまずゆっくり深呼吸する。
だが、何度やっても落ち着くことはできなかった。
『いつまでもこうしていられない!』
そう自分に言い聞かせて、は門の中へと足を踏み入れる。
すぐに朽木家の従者がやってきて、を屋敷の奥へと案内してくれた。
広い屋敷を歩き、ある部屋へと案内された。
「こちらでお待ちください」
「はい。ありがとうございます」
がお辞儀をすると、案内してくれた従者はそれ以上に丁寧に深々とお辞儀をして部屋から出て行った。
一人、部屋に残されたは、ゆっくり深呼吸を繰り返した。だが、どうも落ち着かない。
広い部屋、広い屋敷なのに息が詰まりそうだった。
「ルキアもこんな気持ちでいるのかな?」
はそう呟いた。小さく言ったはずなのに、それは部屋中に響いた。
ルキアから家のことを聞いたことはなかった。
聞く機会がなかったのもあるが、聞けなかったのも事実だった。
ルキアは朽木家のことを話そうとしない。
言いにくいことを無理に話せと言うことなんてできなかったのだ。
「ルキア…」
「失礼する」
の独り言と同時に、ある人物がやってきた。
六番隊隊長であり、朽木家の当主、朽木白哉。
はお辞儀をしようとしたが、白哉がそれをやめさせた。
向かい合う二人。先に口を開いたのは、白哉だった。
「単刀直入に言う。兄はルキアの友人か?」
「ルキアが私のことを友達と思っているかどうかは分かりません。
ですが、私はルキアのことを大切な友達だと思っています」
「そうか…」
ずっと難しい顔をしていた白哉が、とても優しい瞳を見せた。
一瞬だけだったが、笑ったように見えた。
「朽木隊長はルキアのことが大切なのですね」
「…………」
白哉は何も言わないが、は肯定だと思った。
『ルキアが席官でないのも、朽木隊長がそうさせたのかな?』
証拠はなかったが、はそう確信していた。
そう思ったら白哉の印象がだいぶ変わった。
白哉が不器用なだけで、ルキアは大切にされているということが分かったから。