に恋をした瞬間なんて、もう何十年も前のことでとうに忘れてしまった。
気が付けば俺の隣にはいつもがいて、すべての愛情はただ一人、彼女だけに注がれていた。
なんでもわかり合えてしまうこの関係をマンネリと言われればそれまでだが、それでも俺はを愛している。
そう、それは何十年と経った今も確実に、変わらずに。


(ー)
(んー?)

手元の本に落としていた視線をあげてが隣の冬獅郎を覗き込む。
その瞬間、頬に軽く押し当てられた唇の感触に彼女はパチパチと大きな瞳を瞬いた。

(どしたの?)
(なんでもねぇよ)
(えー。いつもはそんなことしないのに)

くすくす、との小さな笑い声が耳元に響いて、ふいに肩にかかる僅かな重み。
隣を見ればは自分の肩に頭を預けて気持ちよさそうに目を閉じている。風が彼女の長い髪をゆっくりと靡かせた。

(なぁ)
(うん?)
(幸せ、か?)

ぎゅっ、と腰に手をまわしてを抱き寄せれば、彼女は薄く目を開いてふわり、微笑む。
一瞬だけ唇に伝わった柔らかさに冬獅郎が目を見開いた。

(幸せだよ。これ以上ないくらい、幸せ)

そう言って微笑んだの瞳に濁りはひとつもなくて。

(そっか。なら、いい)

満足そうに微笑んだ冬獅郎もどこか幸せそうだった。


もうずっとずっと俺はを愛している。けれど本当は同じくらい、怖い。
あんまりにも長い月日を二人は過ごしてきたから。いつかこの想いは乾いてしまうじゃないかと。
刺激と興奮の薄れた関係に、いつかお互いがお互いを飽きてしまうんじゃないかと。


(冬獅郎は?)
(ん?)
(冬獅郎は、幸せ?)


それでもは笑ってくれる。幸せだと、抱きしめてくれる。
だったら俺はそれ以上に何を望むというのだろう。お前以外に誰を愛せるというのだろう。


(……ん、)

首筋に顔を埋めて、一輪だけ花を咲かせる。
くすぐったそうに声を漏らしたの唇を軽く啄ばんで冬獅郎は笑った。

(幸せだぜ、きっとこの先もずっと)


Rosy,
Only you can see me