秋は、夕暮。
夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。



気が付くとあんなにザワザワと鳴いていた蝉たちの姿は無くなり、
穂も実りをつけて黄金色に輝けば、日の暮れに慌てて子らが家路を走る。

気まぐれにと吹いた秋風に、男はぶるりと身を震わせて両の手を袖に突っ込んだ。
静かな静かな夕暮れに目を細め、トンと寒くなったモンだと思わず零せば、隣の女がスィっと白い手を伸ばす。
その様子に男はちらりと女を見下ろしてほんのりと優しく目元を和らげた。

「珍しいこともあるもんだな」

「いえいえだって寒いもの」

「こんな時くらい素直になれねぇのか」

「あらァまったく冬獅郎さんには言われたくない」

「ったく可愛くねぇ」

冷たい指先がふっくら柔らかい手をやや無造作に掴み、するりと五指を絡める、
さらにはそれでも足りぬと腕ごと女の体を己に引き寄せれば、その距離はさらに近いものになる。

「甘いだけの女では飽きるでしょうに」

満足気に口元を吊上げた男を見上げ、女は可笑しげにコロコロと笑う。
それがなかなかどうして気に食わなかったのか、男は繋いだままの手を器用に使い顎を取ると
驚く女を眼差し一瞬で射り、その愛らしい唇に噛み付いた。

「ん…っふ…ぁん、もう、」

濡れた声を漏らして女は男をねめつけるが、男はクツクツと笑うだけ。

「悪かった、やっぱりお前は可愛いよ」

「また意地悪ですか、冬獅郎さん」

「違ぇって。いじらしい方が俺の好みだっつー話」

まだ忍び笑い声を零す男に呆れ不貞腐れつつ、女は仕返しとばかりに指を解くと
勢いよく男の腕に抱きついた。驚くが嫌がらない。故に男は周りの視線も得意気に、女の額へと口付けた。

「飽きなんて来ねぇよ。俺はお前に惚れてるからな」

「まったく冬獅郎さんはズルイ人」

睦むように語りながら身を寄せ合って、二人は蒼に染まりつつある夕暮れを影を引いて家路へと急いだ。






ふたり、ちかく、ふかく、ずっと。