あなたとわたしは、悲しいけれど、全く別の、そして普遍的な生き物。
だからどんなにわたしが愛を募らせたって、性別も造りも、考え方さえ、あなたとは何一つ共有することが出来ない。

それでもわたしは365日。諦め悪くも欠かさず、あなたを想い続け、その存在を欲し続けている。
そうしてあなたに依存するようになったわたしは、わたしを構成する細胞の、霊子の、心臓の、ひとつひとつにまで
あなたが染み込み染み付いて、あなた無しでは生きられないほどに弱り、脆くなった。

わたし自身は望まない、血の色も忘れ、あなたに護られてばかりのわたし。
あなた自身が望む、小奇麗に飾り置かれた、独占欲を満たすわたし。

肌を重ね、唇を合わせ、どんなに愛し合っていたとしても、わたしたちは結局として、矛盾しあっている。
それはまるで、妖美な妄想に耽るシェイクスピア。相容れないものこそ、盲目に溺れてしまうサン・テグジュペリ。






、此処にいたのか」

ふいに聞こえてきた愛おしい人の声。その声にも振り返らず、わたしは穏やかにその腕の中に納まる。
掠めるように耳にかかる冬獅郎の吐息に、無意識に身体が震えた。

「探してたんだぞ。勝手に居なくなるなよ」

「……ごめんなさい」

「どうした?慣れない宴会で疲れたか?」

そう言って、後ろから覗き込むようにわたしの顔色を伺う冬獅郎は、心配そうに眉根を下げた。
そんな様子の冬獅郎に大丈夫だと一言添えてわたしは僅かに微笑んでみせる。

「少し、場に酔ってしまっただけ」

向きを変えて、正面から冬獅郎に抱きつく。
微かに鼻孔を擽る、慣れた冬獅郎の香りと甘いお酒の香り。
回廊を挟んだ向かい側の部屋では、早々と行われている新年会の騒がしい声が響いている。

「無理はするなよ。ただでさえお前、酒の類には弱いんだから」

「ふふ、ほんと心配性なんだから…。お酒は断っているし、大丈夫よ」

「けどもう、こんなに身体が冷えてる…。そろそろ部屋に戻ろう」

熱気に満ちていた宴会会場とは対して、肌を刺すような冷たい風が吹き抜けて、
そんなものからもわたしを護るように、冬獅郎の腕の力が僅かに強まった。

押し当てられる細くも、鍛えられた胸、わたしの髪を優しく梳く、甘い指先。
ぎゅっと冬獅郎の羽織に埋めていた顔を上げて、自然と、味わうように二・三度口付けを交わす。

「っは…ン、ふ……ぅ……」

「ん…、ったくそんな可愛い顔するな。我慢出来なくなるだろ」

甘く蕩けるようなその優しい口付けに、トロリと惚けたわたしに冬獅郎が苦笑いを漏らす。
もう一度、軽く唇を啄ばんで、冬獅郎が差し出した手に手を重ねて歩き出す。


「続きは、俺の部屋に戻ってから、な」


楽しげなその声と共に、月に照らされた銀髪がゆらゆらと美しく輝いた。






あなたがわたしを捕まえて、何でも与えて甘やかすから、
わたしはまた、あなたに溺れて、自身の首に巻かれた鎖すらも愛してしまう。

けれど、あなたとわたしは全く別の、そして普遍的な生き物。
だからどんなにお互い、愛を募らせたって、性別も造りも、考え方さえ、何一つとして共有することが出来ない。

それでもあなたは、365日。わたしを探して、わたしを縛り、わたしを愛玩し続けている。
わたしが染み込み染み付いて、わたし無しでは生きられないほどに弱り、脆くなったわたしの愛おしい人。

どんなに空に手を伸ばそうと、一度溺れた水からは這い上がれない。
死ぬまで、あなた。死ぬまで、共愛。

死んでも水葬。


泡沫に溺れたブルーマリア
(掬うように愛でて、乱れるように泳がせて)
(逃げられない、またわたしは水槽を回るように)