強く自分の手を握り締め、胸にその両手を押し付けた。顔や肩が強張ると、自然と全身に力が入る。自分自身を守っているのか、あるいはいま行われようとしている行為を拒絶しているのかよく頭が理解できないけれど、たぶん、どちらでもないと思う。ただ、緊張しているだけなのだ。いま、初めてのこの体勢に。



眼に広がるのは暗い部屋の中で僅かな明かりに灯されて見える、顔が赤くなりながらもぼんやりとした眼でわたしを見つめている冬獅郎くんの顔。そんな彼の背後にはうっすらと天井が見えていて、わたしの背中は肌触りのいい布団に触れていた。押し倒された、ではなくて寝かされた、そんな表現の方が相応しい。実際、冬獅郎くんはわたしを乱暴に扱うわけでもなく、どちらかというと寝ている赤ちゃんを布団のうえに置くようにわたしの身体をやさしく寝かせた。わたしと冬獅郎くんの身体の距離は決してゼロではない。わたしに体重をかけないように自分の腕で自分の身体を支えているので、冬獅郎くんの腕の長さほどの距離が出来ている。顔が近いわけでも、遠いわけでもない。だからこそ、余計に恥ずかしい。

体勢の所為か、冬獅郎くんの肌襦袢が肌蹴ていて、首筋から胸元にかけての肌が少しだけ見えた。そんなにがっちりとした感じはしないけれど、たしかに男のひと、というたくましさがあった。ぎこちないながらも何度か抱きしめられたあの死覇装のしたはこうなっていたのか、そんなことを考えてしまった。ドキドキ、と心臓が胸を打つ。お互い呼吸は微量ながらもしっかりと眼は見据えている。時間が経ったらこのまま自然と情事に突入するのだろうか、そんなことを思い始めたとき、冬獅郎くんの身体がゆっくりと動いた。その瞬間に身体に一層力が入った。





「……なあ、…、」

「…う…うん…?」

「……抵抗、しねぇのか…?」

「………う、…うん…」

「……なんでだよ」

「……冬獅郎くん、…だから、かな……」

「……その割には身体ガチガチになってるぞ」



冬獅郎くんは胸に押し付けているわたしの手に自分の手を重ねた。この体勢で身体の一部が触れ合っていることがキスすることよりもずっと恥ずかしく思い、思わずちいさく短く声をあげてしまった。冬獅郎くんだからされてもいいと思う反面、やはりその行為自体には羞恥も緊張も恐怖も全部ある。名前を呼ぶようになったときや、初めて抱きしめられたときや初めてキスをしたとき、その行為の先にはまだ恋人として進める行為があると安心していたのに、いざ最後のこの一線を超えようとすると、もうこの先には別れがあるだけでほかにはなにもないのではないかと思ってしまった。抱きしめるという行動やキスは何度とあっても、これだけは一度キリなんじゃないかと思ってしまっている。朝が来れば冬獅郎くんはもうわたしには飽きてしまって、違うひとのところへ行ってしまうのだという恐怖感が押し寄せた。冬獅郎くんに答えてあげたい、でも、それで冬獅郎くんを失うのも怖い、そう考えるとなぜか手が触れているだけで泣きそうになってきた。











「……怖い、…か?」



わたしの手が震えていることに気づいたのか、冬獅郎くんは顔をそのままわたしの方へ落としてきて、額に唇を付けた。そう聞かれて一度目蓋を閉じて瞬きをすると、涙が目尻の方へ流れていった。ごめんね、と謝ると冬獅郎くんは自分の意志では絶対に作らない安心したような、落ち着かせるような表情でわたしに笑いかけると、涙の線を舌で辿った。



「……俺も」



暗い部屋に浮かぶ眼のは鋭い翡翠色なのに、触れている手は乗せているだけで、決して強くない。でも、確かにわたしだけではない手の震えがあった。冬獅郎くんもわたしに触れるたびに同じ不安を考えていたのかもしれない。初めてキスしたときもそうだった。冬獅郎くんだってどこか余裕なさげなのにわたしに恥ずかしくも聞いてきて確認を取ってくれて、いつだってわたしのことを想っていてくれている。





「…心配すんな」

「……冬獅郎くん…」





ゆっくりと身体を抱きしめられて胸と胸がひとつになった。冬獅郎くんはお風呂に入りたての懐かしい匂いがして、初めて抱きしめてくれたときのことや、キスしてくれたときのことを思い出した。あのときも、こんなやさしい気持ちがした。









「…ずっと、好きでいる」







ああ、わたし、あいされている。













































(080427)ぎこちないシャイ同士の初めてシリーズでした。としろさんはきっと『やさしくする』よりも『ずっと好きでいる』と言ってくれるだろうな、と思ったので…。2周年、ありがとうございました!










Dcuir ゆこ様からいただいてまいりました。2周年フリー小説です。
日番谷隊長がとっても格好よくて、ドキドキしながら読みました。
ゆこ様、2周年おめでとうございます。



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